アメリカで苛烈化する「アジア人ヘイト」の実態 東本願寺別院の放火で見えたロサンゼルスの今

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東本願寺別院を実際に訪れてみると、燃やされた2つの提灯台の木材が黒色の墨になっており、その上にあった電灯のプラスチックらしき部分が熱で溶け出していた。玄関前の石の階段の下には、緑色をした重そうな金属製の灯籠2つが投げ出されてゴロンと転がっている。かなりの力を込めて灯籠を石の台座から引き抜ぬいたのだろう。現時点で容疑者はまだ捕まっておらず、犯行動機も不明。ロサンゼルス市警が事件を捜査中だ。 

放火されて燃えた提灯台(写真:筆者撮影)

親鸞聖人の仏門の教えに生きる伊東さんは「ヘイトクライム(憎悪犯罪)だという先入観を持たないように気をつけています。ロス市警が『最優先事項として捜査する』と言ってくれたので、信じて任せています」と言う。

だが、リトル東京の商店街の経営者や日系アメリカ人住民たちの中には、今回の放火・破壊事件を、アジア系を標的としたヘイトクライムだと見ている人が多い。

「北カリフォルニアで、アジア系住人が狙われて重傷を負わされる事件が多発している。いつロサンゼルスでも同じような犯罪が起きるかとおそれていた。アジア系への計画的な憎悪犯罪であることは状況から見て明らかだと思う。怒りがこみ上げてくる」。

そう語るのは、リトル東京で1903に創業された和菓子店「風月堂」の3代目店主のブライアン鬼頭氏だ。京都の東本願寺を本山とする東本願寺ロサンゼルス別院が設立されたのは1904年。1年違いでスタートした風月堂と東本願寺別院は、それ以来、ともに日系人の歴史をリトル東京で刻んできた。

地域住民もショックを受けている

「HIGASHI」というニックネームで愛着を込めて住民から呼ばれ、松の盆栽や梅の花が美しい日本庭園もあるこの寺は、日系やアジア系の人々が日曜ごとに集まる祈りの場であり、地域住民のコミュニティセンターの役割も果たしてきた。そんな心のよりどころが放火され、破壊されたショックは、地域住民にとって計り知れない。

有志がクラウドファンディングのGoFundMeで東本願寺の修理費用を募ると、24時間で目標額の3万ドルを突破し、最終的には9万ドル近くまで寄付が集まった。

ロサンゼルスのダウンタウンの中で3~4ブロック四方の面積しかないリトル東京の現在の人口は約3000人。同寺院の敷地内にはプリスクール(保育園)が併設され、伊東さんによれば、3歳から6歳の児童22人が現在通っている。「園は昨年10月から再開しているので、子供たちの安全を何としても守れるように、セキュリティをすぐに見直します」(伊東さん)。

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