なぜ日本企業は、海外進出が"下手"なのか? 野村証券も第一三共も…積み上がり続ける失敗例
ただし、これらの国々に進出する場合に調整がまったく必要ないという意味ではない。たとえば、ドイツ企業が明文化された規則を非常に重視するのに対し、日本企業は暗黙の了解のうえで事を進める。北欧企業は日本企業に比べて、より対立が先鋭的でそれほど調和を重視しない。とはいえ、全体として見れば、ほかの地域へ進出するよりも調整の程度は少なくてすむであろう。
米国はランクの真ん中に位置しており、最近の日本企業の投資先として最重要である中国とインドは、最も隔たりが大きく、調整の必要度が高い。主な違いとしては、信用関係が組織化されていないこと(契約履行の難しさや深刻な汚職により明らかである)、企業における中央集約的なトップダウンによる意思決定、同族グループ企業以外の企業との共同作業の難しさ、雇用期間の短さ、組合との対立的な関係(インド)、そして、経済面で強い力を持ち、必ずしも協力的ではない政府の介入などが挙げられる。
企業が取りうる5つのオプション
業界分析のレベルにおいては、3つの要素の重要性を強調したい。3つとは、市場規模、成長率、競争力の分析のことだ。このうち、市場規模と成長率という2つの側面については、多くの企業が詳細に分析している。しかし、第3の要素である競争力の分析については、おそらく半分の企業は見落としているだろう。
市場が急速に拡大しているだけでは進出するには十分ではなく、企業はそこから利潤を得なければならない。たとえば、1990年代にアサヒやキリンを含む20社以上の海外ビールメーカーが中国市場に進出し、それぞれが市場シェア15%を目標とした。しかし、その結果、生じた過剰生産により、共倒れになってしまった。ファイブフォース分析など適切なフレームワークを用いて、海外市場を分析することが不可欠である。
ミクロのレベルにおいては、企業は自らのビジネスモデルを確定させる“リソース”について理解を深める必要がある。それは、たとえば人材、機械といったアセット、品質管理のノウハウ等の力量などだ。
ここで最も重要なことは、企業がそのビジネスモデルを展開するために必要な要素のうち、海外では調達できなかったり、わずかしか調達できなかったりする要素は何であるか、である。たとえば、日本企業が質の高い労働力を得ることが可能だったのは、長期雇用により大規模な企業内社員教育が可能だったからである。それと比較して、多くのアジア諸国では短期的な雇用関係が主流であり、日本企業のような人材育成は難しい。
進出国との間に、これまで述べたようなギャップが存在する場合、企業が取りうる対策には、5つのオプションがある。
第1は、現地の条件を受け入れることである。たとえば、業務プロセスを再構成することで、スキルの低い労働者でも働けるようにする。高度なスキルが必要な作業も、細かいステップに分割することで、未経験あるいは熟練度の低い労働者でも対応できるようになる可能性がある。現在、中国の製造業の大半において、このやり方がスタンダードになりつつある。
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