なぜ日本企業は、海外進出が"下手"なのか?

野村証券も第一三共も…積み上がり続ける失敗例

この3つのレベルは、さらに細かい要素に分けられる。マクロ環境のレベルでカギとなるのは、①進出先の国の経済環境、②政治的リスク、そして③ビジネスシステムである。経済の持続可能性と安定性は言うまでもなく重要なファクターであり、多くの企業は海外展開にあたってこの点を考慮している。しかし、政治的リスクを十分に理解している企業はそれほど多くない。

この場合の政治的リスクとは、日中間に見られるような国際的摩擦の可能性だけでなく、(企業と)その国の規制当局との摩擦も含まれる。国内の規制当局とは大きく異なる役割などを持つことがあるからだ。

多くの企業は、おそらく最も重要な側面といえるビジネスシステム上の違いについて十分に理解していない。ビジネスシステムとは、進出先の国に存在する各種の制度、つまりビジネスを行ううえでの“ゲームのルール”のことだ。

これには、その国の文化的側面が含まれるが、それに限ったことではない。人材管理、会計、企業ガバナンス、ほかの企業や顧客との共同作業、業界と労働組合の関係などを含む多くの点は、それぞれの社会によって違っていることが多い。先方の物事の進め方を十分に理解せずに海外進出する企業は、野球のルールを知らないまま試合に参加しようとする選手のようなものである。そのような条件で、勝てる選手などいるだろうか。

各国の制度的な違いについては、研究によりすでに詳細な分析がなされている。特に日本と西洋との違いについては研究が進んでおり、また最近では、ほかのアジア諸国が分析対象となることが多い(参照『アジア諸国のビジネスシステムについてのオックスフォード・ハンドブック』オックスフォード大学出版局。本論では、その解説が趣旨ではないので詳細は割愛する)。

日本と“ルール”が似ている国、違いが大きい国

以下に、日本とアジアの12カ国、欧米の5カ国との間に存在する「制度的な違い」について、数値化した表を作成した。 これらの数値は、“ゲームのルール”が日本と各国とでどれだけ異なっているかを示したものであり、数値が大きくなればなるほど隔たりが大きく、それだけ「よそ者の不利益」が大きいことを示している。表は、日本との「制度的な違い」が小さい国から順に並べられている。

この結果は多くの人にとって驚くべきものであろう。日本のビジネス慣行に最も近いとされるのはドイツとスウェーデンである。社会学者によれば、もし日本列島を欧州の端に引っ張って来られるなら、社会のあり方という観点から、そこにぴったりはまるだろうとのことである。これらの国の経済の特徴として、企業と組合といった異なる経済的アクター同士の社会的な協調性が比較的高い点が挙げられる。また、個人と企業の関係も長期的に構築される傾向があり、金融資本も長期的な視野に立つことが多い。雇用契約も長期的であり、組合は対立するものではなくパートナーとみなされ、企業における意思決定は集団的に行われる傾向がある。

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