中国がインドに「大規模停電」仕掛けた事情 インドの電力を人質に取る中国のサイバー攻撃

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レコーデッドフューチャーのスチュワート・ソロモンCOOは、中国政府の支援を受けたハッカー集団(「レッドエコー」と同社は呼んでいる)が「高度なサイバー侵入テクニックを体系的に駆使して、インドの発電・送電インフラの急所10カ所あまりに静かに足がかりを築いたことがわかっている」と語った。

この発見によって、昨年10月13日にインド最大の商業都市ムンバイを襲った大規模停電は中国からの脅しだったのではないのか、との疑いが濃くなった。国境問題であまり強気になると痛い目に遭わせるぞ、という脅迫だ。

「インドに対する警告ともいえる」

停電当時の報道では、ムンバイ近くにある電力負荷管理施設に対する中国由来のサイバー攻撃が停電の原因、とするインド当局者の発言が引用されていた。当局は正式な調査を開始したが(近く報告が出される予定だ)、それ以降は中国のマルウェアについて口をつぐむようになった。

現在もマルウェアの調査が続けられている可能性はある。ただインドの元外交官が指摘するように、マルウェアを仕込まれたと正式に認めたら、中印国境の緊張緩和に向けて中国の王毅外相とインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が進めている最近の外交努力がこじれかねない。

レコーデッドフューチャーの調査報告を執筆した調査員によれば、「停電とシステム内で見つかった詳細不明なマルウェアとの間で疑われている関係性」には「確たる裏付けがあるわけではない」。しかし、インド国内で地域横断的に電力の需給バランスを取る「給電指令センターが組織的な攻撃の対象となっていたことが新たな証拠で示された」という。

電力網など、敵対国の重要インフラにマルウェアを目立つように仕掛けることが攻撃と抑止の新たな手段となってきたことを示す事例が新たに浮上したことになる。出過ぎた態度を取れば(インフラがサイバー攻撃にやられ)何百万人という人々に被害が及ぶ、という脅威を見せつける行為だ。

パキスタン、中国と接するインド国境の監視を担当していたサイバー専門家のD・S・フーダ退役中将は、中国は「わが国にはこのような攻撃を行う能力があり、実際に行えるのだということ」を示す目的で「信号を送っていると考えている」と話す。「インドに対する警告ともいえる」。

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