ウォール・ストリートと極東 政治における国際金融資本 三谷太一郎著 ~「動機は利潤」が形成した日米間「信頼」の内実
評者 中沢孝夫 福井県立大学特任教授
主に1910年代から30年代の初期までの、国際金融と政治を検証し、現代へのインプリケーションに満ちている。その間、日本は政党政治を実現させ、大正デモクラシーという貴重な日々を経験した。本書はその時期のウォール街と日本の金融家の行動を丹念にたどることにより、国内政治と国際政治の結びつきを明瞭にえぐり出す。
日露戦争の勝利で世界に躍り出た日本のその後の歴史は、満州への進出により暗転を招いたことは誰でも知っているが、歴史の内実は必ずしも一直線に第2次大戦に突き進んだわけでもないし、アメリカとの関係も悪い側面だけではなかった。
当時の日米関係は、ウォール街の金融資本家と、日本のリーダーとの「共通する金融語の理解」による「信頼関係」によって支えられ、また日本の国際社会での地位もそれによって担保されていたと言っていい。
アメリカの金融資本家とはトーマス・ラモント(モルガン商会)やジャコブ・シフ(クーン・レーブ商会)たちのことであり、日本のリーダーとは金融・財政を担った高橋是清と井上準之助のことである。
日本の二人はともに金融マンとして登場し、日本の金融政策をリードしたが、それと同時に二人は、日本に成り立った近代的な政党政治のリーダーでもあった。それゆえ井上準之助がテロによって倒れたとき、「金融語」に支えられた日米の協調体制もまた倒れたのである。
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