福島原発事故から10年、遠い「廃炉」への道のり 燃料デブリ取り出しはそもそも可能なのか
2号機では格納容器の損傷箇所が、比較的低い場所にあるとみられる。このため、燃料デブリ冷却用の水を注入しているにもかかわらず、注入した水はトーラス室に流れ込み、格納容器底部の水位は30センチ程度しかない。
損傷箇所の止水が難しいことなどを理由に、現時点では格納容器に水を張ったうえで燃料デブリを水中で切削する「冠水工法」は採用せず、代わりに「気中工法」と呼ばれる手法が検討されている。しかし、気中工法は、燃料デブリの切削時に放射性物質を含んだ粉塵が飛散し、格納容器の外に漏れ出す恐れがある。
宮野氏は、燃料デブリのうち、コンクリートと混ざり合って非常に硬い状態になっているものは、「飛散リスクも考えると、最優先で手を付ける必要はない。燃料の密度の濃い、炉心に残っている燃料デブリの取り出しが最も重要だ」と指摘する。
今慌てて作業を進める必要はない
これに対し、筒井氏や滝谷氏は、現在のように水をかけて燃料デブリを冷却し続けるやり方を見直し、「空冷方式」にすべきだと指摘する。この方式だと、放射能汚染水の発生も抑制できるという。
両氏が公表した提言では、燃料デブリの発熱量や現在の温度を推定したうえで、「再び溶融する温度に到達する可能性は乏しい」と推測。現在の安定状態を維持するほうが、切削などの手を加えて危険性を高めるよりも得策だと提言する。「放射能や崩壊熱は100年単位で大きく減衰することから、今慌てて作業を進めるべきでない」(筒井氏)という。
さらに、事故で建屋や格納容器が破損し、経年劣化が進んでいることから、建屋外部に厚さ1~2メートルのコンクリート製の外構シールドを設け、建屋を囲う方策を提唱する。
東電は「廃炉中長期実行プラン2020」と題した計画を2020年3月に公表した。そこでは2号機からの燃料デブリ取り出しと、3号機での準備作業や設備の設置などに約1兆3700億円が必要だとしている。それに対して、筒井氏らが提唱する長期遮蔽管理方式では、外構シールドの建設に要する費用は1500億円程度にとどまるとしている。
ただ、筒井氏らの提案は、2016年に国が「石棺方式」として言及し、福島県知事らからの強い抗議を受けて中長期ロードマップの改訂に際して削除した方式と、燃料デブリを元々の位置で長期保管する点では共通している。地元を含めた議論や検証を必要とすることは言うまでもない。
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