福島原発事故から10年、遠い「廃炉」への道のり 燃料デブリ取り出しはそもそも可能なのか

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国や東電が掲げる中長期ロードマップの問題点は、現実味が乏しく、コストがかかるうえ、リスクも大きいとみられる点にある。廃炉を終えた後の敷地の姿については何も言及していない。いわゆる廃炉の「エンドステート」(最終形)がはっきりしていない。

2号機の格納容器に内部調査用の装置を挿入する作業員。被曝を伴う作業だ(写真:東京電力ホールディングス)

エンドステートについては、国や東電と地元自治体や住民など関係者との議論を通じてそのあり方が定まっていくべきものだが、何の議論もないままに、燃料デブリ取り出しというリスクの高い作業が先行しようとしている。

廃炉作業全体をどのような時間軸で考えるかも重要だ。国や東電は廃炉作業を30~40年で終えるとしている。

日本原子力学会の報告書によれば、燃料デブリ取り出し後の原子炉施設に存在する機器や構造物の解体撤去について、即時解体する場合と一定の期間を置いて解体する場合とを比べた場合、一定の期間を置いて解体したほうが廃棄物の発生量が大幅に少なくて済む。というのも、時間を費やすことで放射能の減衰が想定されるためだ。

最終形を見据えて再議論を

また、施設を全部撤去するよりも、機器や地下構造物の一部を施設内に残したほうが、放射性廃棄物の発生量を抑えることができると提言している。

原子力学会が提案するような検証もなしに、エンドステートを定めないまま廃炉作業を進める国や東電のやり方は、コストやリスクを見えにくくする。賢いやり方だとは思えない。

燃料デブリは放射性廃棄物なのか、それとも再処理して燃料として再利用すべきものなのかについても考えが定まっていない。そのため、燃料デブリの将来の扱いもはっきりしていない。

最初の中長期ロードマップが定められたのは原発事故が起きた年である2011年12月。その後、5度改訂されたものの、廃炉を30~40年でやり遂げる目標自体は変わっていない。最近では「復興と廃炉の両立」という掛け声が強まり、30~40年という期間の妥当性について議論すること自体がタブーになっている。

しかし、きちんとした目標設定や工程の検証なしに進めても行き詰まりは避けられない。事故から10年を迎えた現在、試験的取り出しのタイミングが先送りされたことをむしろ好機ととらえ、取り組みの妥当性を検証する必要がある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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