福島原発事故から10年、遠い「廃炉」への道のり 燃料デブリ取り出しはそもそも可能なのか

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国や東電は「中長期ロードマップ」と呼ばれる計画の中で、燃料デブリの取り出し作業の道筋を定めている。しかし、このロードマップ通りに取り出しが進むと考える専門家は多くない。むしろ、「やみくもに燃料デブリの取り出しを進めようとしても、途中で行き詰まる」(日本原子力学会・福島第一原子力発電所廃炉検討委員会の宮野廣委員長)という懸念すら持たれている。

市民グループ「原子力市民委員会」で「燃料デブリの長期遮蔽管理方式」を提唱する元プラント技術者の筒井哲郎氏と元原子力技術者の滝谷紘一氏は、「危険性の高い燃料デブリ取り出しには手を付けるべきではない」と指摘する。

燃料デブリの取り出しは2号機から

取り出しそのものは容認する宮野氏と、長期にわたって見合わせるべきだという筒井氏や滝谷氏では考え方に根本的な違いがある。だが、すべての燃料デブリを急いで取り出そうとする国や東電の姿勢に疑問を投げかけているという点では共通している。

2号機の格納容器内部で見つかった燃料デブリとみられる堆積物(写真:東京電力ホールディングス)

国や東電の計画では、これまでの調査で燃料デブリの状態について比較的多くの情報を得られた2号機から取り出しに着手する。

現在計画されている試験的な取り出しでは、既存の作業用の貫通孔からアーム型のロボットを挿入して数グラムの燃料デブリを取り出す。そして、硬さや成分などを分析し、本格的な取り出しのための知見とする。

その後の本格的な取り出しは、貫通孔を広げ、そこから原子炉格納容器の内部に頑丈なロボットを入れたうえで、先端に装着した装置で切削して多量の燃料デブリを取り出す。

しかし、その作業は困難を極めそうだ。燃料デブリは圧力容器の内部にあった金属製の構造物や格納容器底部のコンクリートなどと混ざりあい、固まっているとみられる。その量は2号機だけで推定約237トン。1~3号機の合計では約880トンあるとされ、核燃料の元の重量の数倍にのぼる。

これまでの解析や測定データを元にした評価によれば、津波による電源喪失により冷却不能となったことで、核燃料は2000度を上回る温度になり、溶けて炉心(圧力容器)を突き破った。そして、「ペデスタル」(圧力容器を支えるコンクリート製の台座)の内側にその多くが落下していると推定されている。さらに、その一部が作業用の穴からペデスタル外部にまで漏れ出しているとみられているが、その実態はよくわかっていない。

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