FRBパウエル議長「昔の知識は忘れろ」の真意 「貨幣数量説」は不発、現実は単純じゃない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

例えば、「Vが一定」という想定は今次局面のように異常なショックを受けた状況では必ずしも正しくない。理論的(厳密にはケインズ経済学的)に貨幣を保有する動機は、①「取引動機」、②「予備的動機」、③「投機的動機」の3つが想定されるが、コロナ禍における貨幣需要増大の小さくない部分は②の予備的動機に基づくマネーの抱え込み、要するに「将来への貯蓄」と考えられる。一方、景気回復への期待が根強い状況では①による貨幣需要が大きくなると想像される。

危機時には貨幣が貯め込まれインフレは起きない

貨幣需要の大部分が②に依存しているとした場合、「Vが一定」という想定に支障が出てくる可能性がある。日本、アメリカ、欧州のマネーの回転率であるVの推移を見てみると、過去を振り返れば、ITバブル崩壊とアメリカ同時多発テロ、世界金融危機(リーマンショック)など、強いショックが起きた局面でははっきりとその低下が確認できる。もちろん、その際にインフレが高進することもなかった。

先に示した「MV=PY」に当てはめると、「Mが急増してもVが低下していれば、Pが上昇する必要はない」、要するに「インフレの芽」を警戒する必要はないという話になる。未曾有の危機だからこそ、マネーと物価の関係は貨幣数量説が想定するほど単純なものにはならない。

次ページこの先のFRBの政策はどうなるのか
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事