FRBパウエル議長「昔の知識は忘れろ」の真意

「貨幣数量説」は不発、現実は単純じゃない

この点、パウエル議長は2月23日に行われた議会公聴会において「大昔にわれわれが経済学を勉強したころはM2(※マネーサプライ)と通貨供給量が経済成長に関係するとみられていた」としたうえで「現在ではM2に重要な意味合いはない。この知識は忘れる必要がある」とマネー急増とインフレ高進の関係を全否定している。

貨幣流通量が増えれば、通貨1単位当たりの価値が毀損し、実物経済における物価が上昇するというのは直感的に分かりやすい理屈だが、現実はそれほど単純ではない。そうした伝統的な理解は物価変動を貨幣現象と捉える貨幣数量説に倣うものだが、現実がそれに沿って動いてきたわけではない。この点を今回は整理してみたい。パウエル議長が指摘するように、M2を見てインフレを恐れることに意味はない。

貨幣数量説の2つの前提

貨幣数量説は実体経済とマネーの関係に関し「名目GDP=貨幣数量(マネーストック:M)×流通速度(V)」と規定する。流通速度とは、貨幣が実体経済で使われる頻度や回転率などと理解される。例えば2019年の日本を例に取れば、名目GDPは約554兆円、マネーストック(M2)は約1040兆円なので、マネーは0.5回転(554兆円÷1040兆円)したことになる。

理論上、短期的にこのVは、一定として議論が進められる。また、名目GDPは実質GDPと物価によって「名目GDP=物価(P)×数量(実質GDP:Y)」と表現されるので、貨幣数量説は「MV=PY」という関係を規定することになる。なお、貨幣数量説の世界は「貨幣は経済取引を効率的に行うための交換手段でしかない」と考える「貨幣の中立性」が成立する世界なので「Mを増やしてもYは不変」という考え方が前提となる。この時点でVに加えYも一定という世界が想定されることになる。

そうなると上記の式ではMとPの関係だけが残り、「急増したマネー(M)の結果、物価(P)が押し上げられかねない」という「インフレの芽」を警戒する話につながってくる。前述のように現在の先進国ではMが急増しているのでPの急騰を懸念する論調が出ているわけだが、パウエル議長が述べるように、その知識に依存することは危うい。

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