日本で蔓延る「孤独=悪」の風潮に問いたい問題 1人はつらくて寂しいと考える人は多いのか?

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孤独と上手に付き合うということは、孤独の感情をコントロールすることではありません。発生した感情は仕方ないものです。それよりも、そうした感情を客観視して内に取り込む「孤独の内在化」が大事になります。

人と接したことで生まれた孤独の感情とは、その人と接したことで生まれた「新しい自分の姿」そのものなのです。Aさんと接すれば、Aさんと接したことで生まれた自分(感情)が必ずいます。それはいわば、あなたが誰かとつながったことで生み出した「新しいあなたの赤ちゃん」なのです。

せっかく生まれてきた赤ちゃんを自分の外側に放置しているから、「つらい・寂しい」とその子は泣き叫ぶのです。外側に放置しないでください。自分の内側に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてほしいのです。そこで生まれた孤独は、あなた自身が育てていくものなのです。

自分の感情を内在化させれば、客観的に感情を把握することができます。羨ましいとか妬ましいと思った感情もすべてあなた自身であると認識すればいいのです。

自分の中の多様性も生まれる

こうした感情の内在化は、決して難しいことではありません。多くの人が乳幼児の時点ですでに経験しているはずです。

小さい頃、母親の姿が見えなくなると泣き叫んだのは、自分の外側にいる母親に依存しきっていたからです。しかし、少し長じて、「母親はいつもすぐ近くにいて、いざとなれば助けてくれる」と信頼するようになると、その場に母親の姿がなくても安心してひとり遊びができるようになります。それが子どもの自立心の育成につながります。

これは、「1人でいること」のポジティブな面に注目したイギリスの精神科医のウィニコットが提唱した「1人でいられる能力(the capacity to be alone)」の話ですが、まさしくそれこそ、母親と自分との関係性の中で生じた感情の内在化で、自己の内面に新しい自分を生み出す力といえます。

孤独を自分の中に取り込み、自己を客観視することで、自分の中の多様性が生まれます。それはとりもなおさず、他者とのつながりが自分にとってかけがえのないものであることを意味します。

つまり、孤独を知るからこそ、そして、孤独を通して自分と向き合えるからこそ、他者を思いやれるのです。「自分が孤独だと感じたことのない人は、人を愛せない」とは瀬戸内寂聴さんの言葉ですが、まさしくその通りです。

孤独をこの世から抹消しないといけない「悪」としてとらえることは何の問題解決にもなりません。悪でもないし、敵でもない。一生付き合っていく「自分の中に生まれたあなた」そのものなのです。孤独を悪扱いして、大切に育てられない者こそ真の「ひとりぼっち」なのだといえます。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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