私立大学は一段と淘汰が進む厳しい時代へ、少子化に金融危機が追い打ち《スタンダード&プアーズの業界展望》

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 しかし、仮に大学法人が、虎の子の事業資金を、リスクの検討を十分に行わないまま運用に振り向けた結果、有価証券投資での評価損だけでなく、デリバティブ(金融派生商品)取引でも多額の評価損が発生し解約金や追加担保調達が必要となった場合などは、財務基盤の深刻な悪化が格付けにも反映されることになるだろう。

終わらない過当競争、私立大学業界の信用力向上は望めない

大学設置基準が緩和された1991年以降、大学数は実に1.5倍に増加、うち私立大学は短期大学からの改組もあって200校以上も増えた。この増加数の84%を私立大学が占める。

一方、この間、大学入学適齢期である18歳人口は、204万人(1991年)から125万人(2008年)に4割弱も減少した。この結果、大学セクターはまれにみる供給過剰・過当競争状態に陥り、多くの大学で定員割れが続出する事態となっている。

2009年度は46%に当たる265の大学で大学入学者の定員割れ(日本私立学校振興・共済事業団調べ、集計校570校中)となり、前年度より18校増加した。さらに、入学者の定員が50%に満たない大学も29校から2校増加した。

今後、上位ブランド校は、強い事業・財務基盤をテコに学生の獲得意欲をますます強めているため、規模や歴史、ブランド力に劣る中小・新興大学では定員割れがますます深刻化する、とスタンダード&プアーズは見ている。

国の将来人口推計によると、今後数年、18歳人口は120万人前後で落ち着くと見られているが、大学数が減少するか、定員割れ校が大幅な定員削減に踏み切るなどしない限り、供給過剰状態は解消しない。このため、私立大学法人セクターの信用力向上も難しいとスタンダード&プアーズは考えている。

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