私立大学は一段と淘汰が進む厳しい時代へ、少子化に金融危機が追い打ち《スタンダード&プアーズの業界展望》
資産運用リスクを把握し、管理する体制作りが重要
金融危機の影響を最も大きく、かつ直接的に受けたのは、資産運用収入である。少子化で学費収入の増加が期待できない中、各大学法人は収入源の多角化を図るべく、競って資産運用収入の増大に走る傾向にあったが、金融危機により多くの運用資産の時価が大幅に減価し、また計画していた売却益や金利収入を得ることができなくなってしまった。
もちろん、多額の評価損も問題だが、スタンダード&プアーズは、大学法人が資産運用のリスクを理解し管理する体制を構築してこなかったことが、今回の問題を大きくしていると考えている。
資産運用はリスクを伴い、とりわけ歴史的な低金利が長期間にわたって続くなかで資産運用収入の増加を目指すには、運用収入に見合ったリスクを想定しなければならない。
スタンダード&プアーズは、どのようなリスク(為替、金利、信用、市場リスクなど)を取ろうとしているか、大学法人が自ら把握できているか、そしてリスクが発現した場合にも耐えうる財務のバッファを持っているかどうかが、格付け分析上重要だと考えている。
スタンダード&プアーズが格付けしている青山学院(AA−/安定的/--)、東京理科大学(AA−/安定的/--)などは、長期運用を前提とし、当面必要でない余資運用に徹しているため、評価損によって一時的にせよ収支やバランスシートが悪化しても、キャッシュフローへの影響は少ない。
資産運用の歴史と積極さで日本をはるかに凌ぐ米国でも、多くの大学で運用資産の減少に直面しているものの、事業面での競争力に変化がなく、流動性に悪影響を及ぼしていなければ、格付けにネガティブな影響が出ているケースは今のところ少ない。