トヨタ「ヤリス」発売1年、絶対王者の通信簿 激戦のコンパクトクラスで価値を創出できるか

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まずハイブリッドシステムの違いが、フィットやノートとの間に存在する。ヤリスのHVは、ストロングハイブリッドなどといわれ、本格的ハイブリッド車(HV)であることに違いはない。トヨタのシステムは、初代プリウスが目指したガソリン車の燃費性能を2倍にするための機構で、燃費性能向上に軸足を置く。ヤリスのWLTCで36.0km/Lという燃費がまさにその証だ。

一方、ノートは日産が電気自動車(EV)のリーフで培った技術を応用したシステムであり、燃費性能ではやや劣るが、加速性能や走行中の快適性でモーター走行を主軸にしているので優れている。ホンダは、ノートと同じようにモーター走行を主体とし、高速巡行走行でエンジンも走りに使うが、普段の乗車感覚はノートに近く、静かで快い。

日産の新型ノート。ヤリスと同様にHVだが、モーター走行を主軸にした加速性能やワンペダル操作といったエコ以外での価値を提案する(写真:日産自動車)

今後はエコを超えた価値が求められる

HVが燃費に優れるのは大前提として、そのうえで快適な乗り心地や乗り味が消費者の期待を満たす時代へと移り変わりつつあると思える。その点、あくまで燃費性能で一番を目指したヤリスのHVは、直列3気筒エンジンとしたことによる騒音・振動が常にあって、ノートやフィットに比べると快適性では下回る。

またノートは、EVを活かしたワンペダル操作を採り入れ、ペダル踏み替えのわずらわしさを減らすことを特徴にしている。同様の仕組みは、トヨタのハイブリッドシステムでも可能だと同社の技術者は語る。しかし、それを採り入れないのは、EVを販売した経験がなく、思いが及ばないからだろう。

軽自動車も、すでに燃費性能の点ではある水準に達し、より快適であったり上質であったりするなどの商品性に力を注ぎはじめている。ヤリスも、回転シートを助手席だけでなく運転席へも設定するなどの新たな試みがみられるが、クルマとしての快適さや上質さでは、軽自動車との比較でも判断がわかれるかもしれない。

初代プリウスが築き上げたHVの価値観は、以来24年を経て広がりを持ち、消費者の期待も変わりつつあるといえるのではないか。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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