須賀:暴徒がアメリカ国会議事堂を襲撃したニュースは、日本でも大きく報道されていました。社会の分断がより深まっていく中で、デジタルテクノロジーは、今後、社会に恩恵を及ぼすことができるのでしょうか? もしくは現在の問題をより深刻化させてしまうのでしょうか?
中島:私はエンジニアですし、デジタルの世界に長くいるので、できるだけポジティブなことを言いたいですが、現在のデジタルテクノロジーをめぐる状況はとても難しいと感じています。デジタルテクノロジーはいろいろなものを安く、便利にし、多くの人にメリットをもたらしますが、人間が行っていた多くの仕事を代替することも事実です。それは人工知能に始まった話ではなく、オフィスの受付に人が立たなくなり、代わりに機械を置くようになったことでも起きています。
アメリカのマクドナルドではコロナ禍に、人ではなく、自動券売機を通して注文をとるようになりました。自動券売機が導入されることで、従業員の数は少なくて済むようになるので、多くの人が解雇されますが、マクドナルドとしては、1人当たりの生産性が向上し、人件費を削減することができます。
このように、デジタルテクノロジーのメリットは、社会全体にもたらされますが、最も大きなメリットを株主など、企業を所有している人が享受する可能性が高くなります。デジタルテクノロジーによって、1人当たりの生産性が上がるということは事実ですが、それは、従業員の数が少なくても済むようになるということでもあるので、どうしても貧富の差は開いていきます。
日本の生産性が上がらないことには両面の問題がある
須賀:まさに、デジタルテクノロジーによって個人当たりの生産性は上がったものの、その恩恵を受けられていない人が膨大にいることで、さまざまな問題が生じています。
中島:私たちはテクノロジーによって、いろいろなものを便利にしようとしてきましたが、こういった矛盾は必ずあると思っています。ただ、進化は止めることができません。テクノロジーは進化し続け、今まで人間がやっていたことを、機械がより安く、かつ正確に代替する方向へと向かっていきます。このような進化に対しては、テクノロジーを「悪」として、進化を止めようする努力よりも、テクノロジーの進化によって、仕事を失った人たちをどのようにサポートするかといったことを根本から考え、別のアプローチから準備することが必要だと思います。
須賀:別の考え方も必要になりますね。
中島:日本では、従業員の生産性が上がっていないことが問題視されていますが、それは裏を返せば、これまでの日本企業があまり従業員をリストラしてこなかったとも言えるので、必ずしも悪いことだとは言えないと思います。一方で、生産性が上がらないことによって、日本企業は国際的な競争力を失っているとも言えますから、やはり、この問題には両面があります。
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