田原さん、「科学」で稼いでもいいですか? 田原総一朗×丸幸弘が激論「どうする日本の科学」
そんな面白い会社にリバネスは出資することもあります。VC(ベンチャーキャピタル)のように多額の出資はできませんが、彼らは最初の数百万円が用意できなくて苦しんでいますから、そこを支えています。そういう段階の会社には日本の銀行は融資してくれませんからね。そしてこれも大事なのですが、できるだけ口出ししないようにしています。口を出しちゃうと面白くなく=怪しくなくなっちゃいますから。
田原:でも、それって取りっぱぐれることも多いでしょう?
丸:そのとおりです(笑)。でも、研究って元来そういうものなのです。100やって1当たるかどうか、という世界ですから。でもノーベル賞に比べればずっと確率は高いですし。
農業を2次産業にしたい
田原:ところで、リバネスでは植物工場なんかも手掛けているんだよね?
丸:そうですね。気候がこれだけおかしくなっている中、今後、地球規模で見ればエネルギー・食料・水が課題となり、紛争も起こっていくと思います。
科学者としてそこに解決策を提供することがもっとできると思うのです。生き物にとってとても大切な要素にタンパク質とビタミンがあります。タンパク質は、たとえば、今、ユーグレナ社がミドリムシで解決策を提示しています。僕たちは、植物工場を通じてビタミン=植物にアプローチしています。
僕は農業は「1.5次産業」だととらえているのです。古来からの山で狩りをしたり、木から実を採ったりする、つまり自然に手を加えないのが1次産業。2次産業は工場のように部材を調達して、一定の規格で再生産が可能なものを指します。今の農業はそういう意味では、2次産業と1次産業の間にあるものです。種や苗を仕入れてきて、農地という一種の設備を整備して、そこで人工的に生産を行っているからです。
でも、農業は2次産業になりきっていない。工場のように一定の品質・量で製品(作物)が生産できているか、といえばそうではないですよね。気候が悪ければ、取れ高が減ってしまったりしますから。1.5次産業のままでは、国の援助がないとやっていけない。だから、僕は農業は、生産量は下がることになりますが、有機栽培のような本来の1次産業に近づけるか、逆に「生物生産工場」になって、生産性の高い2次産業を目指すか、2つの方向に分けていくべきだと考えています。
田原:でも、空調を使ったり、照明を当てたりするエネルギー効率を考えると、引き合うものですか?
丸:もっと生産効率が上がれば合うようになります。現状の農業も、ハウス栽培でボイラーを炊いたり、化学肥料や農薬をまいているわけです。「工場」で作る作物は、生産工程が一定に管理されることになりますから、トレーサビリティという観点でも、かえって安全でもあるのです。
田原:安全なのはわかる。でも企業としてビジネスが成立する?
丸:これからさらに気候や食糧問題が厳しくなるのは避けられません。逆にいえば、「工場」を手掛ける企業にとってはチャンスが広がりますし、われわれの技術が生かせる場面も増えていきます。
日本ではこれからオフィス街にも空きビルが増えてくるはず。そこに植物工場がどんどん生まれたらどうでしょうか。消費地と生産地が直結するわけです。日本では建物の中という閉鎖環境での植物工場の技術が進んでいます。ドバイのような砂漠の国からも引き合いがあるのです。
(構成:まつもとあつし、撮影:風間仁一郎)
※後編に続く。後編は6月30日(月)公開予定です。
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