世界を旅する写真家が感じた「ダッカ」の息吹

予定調和とはかけ離れた出会いに満ちている

バングラデシュ・ダッカにて(写真:石川さん撮影)
エベレストに隣接するローツェ、マカルー、K2登頂に挑み、帰国後すぐに新たな旅へ。カメラを携え、北極圏から南米まで、世界中を旅し続ける写真家・石川直樹さん。旅の途中で、石川さんはさまざまな風景と出会ってきました。石川さんが数年ぶりに訪れたのはバングラデシュの首都ダッカ。この街には、ほかのどこにもない魅力があるといいます。7年間の旅の軌跡を記した石川さんの著書『地上に星座をつくる』のなかから紹介します。

またダッカにやってきた。ホテルの部屋で朝起きると、まずは遠くからひっきりなしに車のクラクションの音が聞こえる。「ああ、ダッカにいたんだ」と寝起きの頭で考え、のろのろとシャワーを浴びて着替えを済ますと、ホテルを出る。空を見上げて、「今日は暑いな」とか「雨が降りそうだ」などと天候のことを少しだけ心配する。

この時季は急なスコールが多く、カメラ機材を抱えている身としては、バングラデシュ特有の大粒の雨には敏感にならざるをえない。そして、道路の角でCNGと呼ばれる三輪タクシーをつかまえて、値段交渉をして乗り込む。料金メーターは付いているが、外国人相手にメーターで乗せてくれる運転手など、まずいない。

バングラデシュの三輪タクシーは、走る牢獄のような乗り物だ。身をかがめて車内に座りこむと、運転手によって外から鍵がかけられる。前方の運転席と後方にある2人掛けの座席は鉄の網で区切られ、左右の扉も同じく格子状の網になっている。

絶え間なく鳴り響くクラクション

ホテルの部屋では遠くに聞こえていたクラクションが四方八方からけたたましく響き渡る。道路の凹凸が尻から直接伝わってきて、体が浮くこともたびたびだ。激しい振動や急ブレーキの衝撃も絶え間ない。

交通事情は極めて悪い。ダッカの中心にある主要な道路でさえも信号はなく、警察官による手信号があるのみ。ルールはほぼないので、三輪タクシーもリキシャも車も自転車もバイクも馬車もバスも歩行者も、縦横無尽に道路上を動きまわっている。世界有数の人口密度ということも手伝って、道路上は混乱の極みとしか言いようがない状態だ。

少しでも前にいる乗り物に優先権があり、後ろからやってきた乗り物は、前の車が急旋回しようが何しようが注意をしてよけねばならない。そもそも車線という概念がなく、追い抜き追い越しは当たり前で、隙間があれば突っ込んでいく。だから「おれは今あんたの後ろにいるんだよ」という合図として絶えずクラクションを鳴らしながら走るのだ。

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