「警察の裏金」暴露した男が語る内部告発の苦悩 顔出し・実名の記者会見から17年経た今の思い

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――いろんなことがあったとしても、振り返ってみて、原田さん自身は「内部告発者になってよかった」と誇りに思うのでしょうか。

よかったかどうかは簡単に言えません。内部告発に誇りが持てるかどうかは個々人のことですから、他の人についても一概には言えません。私自身は裏金システムにどっぷりつかっていたわけですから“誇り”を持つことはできませんでした。むしろ、英雄のように扱われることに困惑しました。

一方で、幸いと言いますか、当時の報道や道内の世論は私に好意的でした。見知らぬ市民から、同級生から、他府県勤務のときに知り合った新聞記者から、警察職員OBから、多くの方々から激励が寄せられました。

一席を設けて、励ましてくれた人もいました。これには勇気づけられました。小・中学校で同級生から「よくぞ話してくれた。ありがとう。私には誇らしい友人がいる」という手紙も受け取りました。

裏金の根っこと警察の隠蔽体質は残された

私の記者会見をきっかけに道警は内部調査を開始し、最終的には組織的な裏金づくりを認めて謝罪し、約9億6000万円を返還して、この問題は終わりました。

しかし、道警の内部調査では、上層部の関与、特に裏金づくりと裏金隠しの中枢だった会計部門の関与は否定し、幹部による私的流用も否定しました。こうした結論は、私の体験した道警の裏金システムとまったく違います。裏金の根っこと警察の隠蔽体質は残されたのだろうと考えています。

自身の告発からすでに17年。長い時間を経る中で、当時のすさまじい経験は原田氏の内部でも緩和されてきたのかもしれない。告発の前後、原田氏には思いもしない出来事が次々と押し寄せていた。次回は、それらの出来事を振り返りつつ、現代における公益通報の意義を語ってもらう。

取材:フロントラインプレス(Frontline Press)

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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