「警察の裏金」暴露した男が語る内部告発の苦悩 顔出し・実名の記者会見から17年経た今の思い

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しかし、若いキャリアの多くは、裏金を受け取ることに何の遠慮もありませんでしたし、増額を要求したキャリアもいました。当たり前のように高級クラブや料亭で飲み食いするキャリア、無責任な思い付きで組織改革をやろうとするキャリア、見下すような尊大な態度で地元出身の幹部に接するキャリア……。

こうした人たちが、日頃は現場の職員にもっともらしい指示や命令を発し、組織を動かしていたわけです。そして、将来は都道府県警察のトップに君臨し、日本警察のトップになっていく。地元出身の多くの幹部たちは、唯々諾々としてキャリアのご機嫌をうかがっていました。私はこうしたキャリアには慇懃無礼に付き合うことにしていましたが、“一寸の虫にも五分の魂”という心境でした。

組織的な裏金づくりについては私自身、現職時代は「これでいいのか」という疑問をずっと持っていました。本来は現場の捜査員に渡すべき捜査費などが裏金になり、組織にピンハネされていた。結果、暴力団の捜査などで自腹を切る者もたくさんいました。

その一方で、幹部は裏金から毎月ヤミ給与を受け取ったり、私的な飲食で使ったりしていた。私もその恩恵を受けていた1人ですから、ヒーローでも何でもありません。

やみくもに立ち上がっても潰されるだけ

――疑問を感じつつ、在職中は組織内部で改革に向けて動けなかったのでしょうか。

警察の裏金システムは、警察庁を頂点にしてすべての都道府県警察に存在していると考えていました。巨大な闇のシステムです。現場の一警察官がやみくもに立ち上がっても潰されるだけだったでしょう。それに当時は、裏金システムだけを取り出してやめることは難しいと考えていました。

事件捜査には、いろんな協力者が必要です。例えば、暴力団関係者との関係を維持するには経費もかかる。そうした捜査協力者を警察ではスパイの頭文字を取って「S(エス)」と呼びますが、Sの管理と運用を捜査員個人ではなく、警察全体としてどうするかといった問題と裏金問題は表裏一体でもありました。つまり、簡単には手を付けられない、と。

釧路方面本部長時代、会計課長に日額旅費を現場の捜査員に全額支給することを検討するように指示しましたが、「できない」と言われました。警察内部の機関誌でそれとなく、この問題の改革の必要性を記したこともありますが、大きな反響はありませんでした。

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