「日本人は多神教だから寛容」通説は本当なのか

統計調査をもとに考察する「無寛容」の正体

世界と比べてみると、どうなるのでしょうか??(写真:kai/ PIXTA)
いま世界中で「不寛容」の嵐が吹き荒れています。とりわけアメリカや欧州、中東など「一神教」が主流の国々では、紛争や諍いが絶えません。一方、日本人が比較的穏やかなのは「多神教」「無宗教」だからでしょうか。宗教学者で国際基督教大学教授の森本あんり氏の新刊『不寛容論――アメリカが生んだ「共存」の哲学』の一部を抜粋・再編集して、日本人の特質について解説します。

日本でよく聞かれるのが、キリスト教にせよイスラム教にせよ、「一神教はどうしても不寛容だ」という意見である。それと対になっているのが、「日本は多神教だから寛容だ」という説で、これは床屋談義だけでなく学問的な見解としても論じられることがある。

その発端になったのは、「農耕由来の多神教」と「砂漠由来の一神教」という対比を論じた和辻哲郎である。彼の『風土』論(1935年)は、その後、梅原猛や山折哲雄といった昨今の日本研究者たちにも継承され、欧米の対テロ戦争が始まった後はさらに拡散した。

日本人は寛容なのか??

日本人のこういう自己理解には、まず統計的な数字を示しておくのがよいかもしれない。2018年に刊行された『現代日本の宗教事情(国内編I)』では、編者の堀江宗正が「世界価値調査」のデータを用いて日本と他国を比較し、その「惨憺たる」結果を示している。指標に選ばれているのは中国、インド、アメリカ、ブラジル、パキスタンで、それぞれ無宗教、多神教、一神教など、多様な宗教情勢を抱えた国々である。

日本は、細かな数字を省略して順位だけを記すと、「他宗教の信者を信頼する」人の割合では中国に次いで下から2番目、「他宗教の信者も道徳的」と考える人の割合が最低である。

「他宗教の信者と隣人になりたくない」と答える人は6つの国の中でいちばん多く、「移民や外国人労働者と隣人になりたくない」はインドに次いで多い。これらの数字は、宗教的にきわめて不寛容な日本の現実を浮かび上がらせている。

この調査でもう1つ興味深いのは、寛容度の低い日本と中国では、宗教を重視する度合いも低い、という事実である。つまりこの両国では、何の宗教であるかを問わず、そもそも宗教というものに対する寛容度が低いのである。

日本人は、クリスマスとお正月を一緒に祝い、生まれたときにはお宮参りをし、結婚式を教会で挙げ、葬式は寺に依頼する。だから宗教に寛容だ、というのが通説だが、こうして見る限り、どうやらそれはうわべだけの話のようである。

以上をまとめて堀江は、「一神教=不寛容」「多神教の日本=寛容」という説は「事実と正反対」である、と結論づける。外来宗教との接触が少ないから、自分たちは寛容だと思い込んでいるだけだ、というのである。

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