「日本の大企業はオワコン」と信じ込む人の盲点 尾原和啓「大躍進のラストチャンスが到来した」

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例えば『ゼクシィ』がやった結婚式場のマッチングなんて、想定されるマーケットはとても小さかったのに、峰岸(真澄社長、4月から会長)さんが事業長のときに「それ、いけるよなあ」と始めて成功しました。

オンライン化した旅行のマッチング・サービス『じゃらん』で『トリップアドバイザー』など海外の大手に勝てず、悔しい思いをした出木場(久征副社長、4月から社長)さんは「どのサービスなら世界で勝てるか」を考えて、求人サービスの「Indeed(インディード)」にたどり着きました。ロマンとソロバンのバランスが取れているんですね。

――この数年は、ようやく若くて元気な人たちが起業をするようになり、そこに投資をするベンチャー・キャピタルも増えてきました。

第2、第3の江副さんがワラワラと登場しつつありますよね。スマホとソーシャル・ネットワークが世の中に行きわたって、やっとその時代がやってきた感じです。

「製造業+起業家精神」がアフターデジタル時代のカギ

でも江副さんとリクルートを描いた『起業の天才!』は、起業家を目指す若者だけでなく、製造業の大企業で働いている人たちにも読んでほしい。

この本にも書いてあるように、日本企業はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に完敗しました。でもそれは、ネットがネットで完結した時代の話です。これからは(製造業などの)リアルの中にネットがオーバーラップしていく「アフターデジタル」の時代になります。

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今、イスラエル企業が「日本企業とコラボしたい」と熱烈なラブコールを送っています。ソフトウェアが得意な彼らが、基盤がしっかりした日本企業の「ものづくり」に高い価値を見出しているのです。ネットがネットで完結する時代の後には、ネットと製造業などリアルの産業の掛け算が爆発的な価値を生む時代がやってくるのです。

日本の製造業もその時代に向けて動き始めています。東芝は独シーメンス出身の島田太郎さんを最高デジタル責任者として迎え、パナソニックは2017年に(独ソフトウェア大手)SAP出身の馬場渉さんをビジネスイノベーション本部の本部長に据えています(2020年4月から環境エネルギー事業担当参与)。

『起業の天才!』は日本の大企業に厳しい視点を向けているので、大企業の人が読めば少しばかり心がチクチクするかもしれません。でも、だからこそ読んでほしい。リアルをデジタル化していくゴールデン・タイムが始まる今は、製造業に代表される日本の大企業がもう一度、起業家精神を取り戻す最後のタイミングだからです。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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