認知症の問題は避けて通れない、介護を取り巻く厳しい現実【特集・認知症と生きる】
札幌市のグループホーム「福寿荘」のデイサービスに週2回通っている後藤静二さん(60)が、認知症の告知を受けたのは57歳のときだった。スーパーの社員食堂で調理師として働いていた後藤さんは、病気をきっかけに仕事を辞めた。「好きな仕事だったので悔しかった」。
だが、「何かやっていないと自分がダメになってしまう」と、認知症になってから日記とクラリネットを始めた。いまでも北海道の民謡や流行歌など30曲は吹ける。日記は寝る前の日課となった。
「きちんと告知をしてもらって本当によかった。そのおかげで病気を受け入れ、自分の生き方を考えることができた」と後藤さん。
高齢社会の宿命ともいえる認知症。65歳以上の有病率は4~8%、年齢が高くなるとともに有病率も増加する(日本認知症学会編『認知症ガイドブック』より)。高齢者だけではない。後藤さんのように若くして発症する若年認知症も切実な問題だ。
認知症の介護の厳しい現実をいち早く取り扱った小説『恍惚の人』(有吉佐和子著)が刊行されたのが1972年。それから約40年が経ち、認知症に対する考え方がいま、大きく変わろうとしている。
「従来、ともすれば介護する家族など『周りの人の視点』で医療や介護が行われてきた。それが『本人の視点』を取り入れた医療・介護へと大きく転換している」
認知症の訪問診療を行うこだまクリニック(東京都品川区)の木之下徹院長はそう説明する。木之下院長は、地域で認知症ケアに取り組む介護者を支援するNPO「地域認知症サポートブリッジ」の会長も務めている。
これまで、「問題行動」と呼ばれていた徘徊や妄想なども、本人の視点に立って原因を考え、それを取り除くなど適切なケアを行うことによって、かなりの改善が見られることがわかってきた。いまでは「問題行動」という言葉自体が使われず、BPSD(認知症の行動・心理症状)と呼ばれるようになっている。