財政政策の「出口戦略」が世界の経済成長を抑制--大場智満・国際金融情報センター理事長(元財務官)

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 世界経済の下降に対して、政府と中央銀行はそれぞれ精いっぱい対処した。米国では、8000億ドルもの景気対策を発動し、FRB(連邦準備制度理事会)は政策金利を0~0.25%まで引き下げるとともに、非伝統的な政策も導入した。市場からの国債買い入れや国債担保の貸し付けなどだ。これを今どうすべきかという段階になっている。

財政による景気刺激策は、もうこれ以上続けられない。ただ、財政を抑制すると、さまざまな問題が出てくる。

--財政の抑制は、景気回復基調に水を差すことになります。

米国や日本は、景気回復を優先して、財政健全化は後回しというスタンス。ところが、ユーロ圏はそれが難しい。というのは、ユーロという通貨がギリシャ問題を機に大きく揺さぶられているからだ。

ユーロ圏は中央銀行が1つで、その総裁はトリシェが務めている。一方で、ユーロ圏には政府が16もあり、財務省が16ある。その16の財務省と一つの中央銀行がどう整合性を持たせられるかが課題としてある。

本来なら、一つの国か連邦政府になっていなければならないが、政治統合は遅れている。ユーロという共通通貨を創出したということは、経済統合が最終段階まで来たことを意味するが、政治統合はまだ最初の一歩を踏み出したばかり。

こうした現段階において、各国の政策の整合性を担保するものが、「財政赤字を対GDP比で3%以内に抑える」というマーストリヒト条約の安定成長協定だ。その協定の維持が危なくなったことで、機関投資家や投機筋に狙われて、ユーロが揺さぶられている。

--ユーロ圏の対GDP比の財政赤字(2009年予想=欧州委員会)はギリシャ(12.7%)、スペイン(11.2%)が10%超、ポルトガル(8.0%)、フランス(8.3%)など、基準の3%を大幅に超える国が急増しています。

このままではユーロという通貨が安定しない。だから今、これが真剣に議論されていて、ユーロ圏各国は遅くとも13年までに3%以内に抑えるという目標を立てている。共通通貨ユーロを守るために財政赤字を減らしていかなくてはならないわけだ。そこが、日本や米国とは違う。

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