受験生が必携の「カイロ」使用後の意外な活用術 袋を開けるとなぜ温まるか、メカニズムも解説

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このように錆、使い捨てカイロ、脱酸素剤は一見関係ないように見えますが、化学的にはまったく同じ反応が起こっていることがわかります。

使い捨てカイロの利用上の注意は、外袋の裏にずいぶん詳細に書かれてありますので、それを読むべきでしょう。最も注意すべきことは低温やけど、これは滅多に起こらないかと思いますが、就寝時、こたつの中、暖房器具の近くでは使わないことが肝心です。

和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している(写真:AERA.dot)

また、発火の可能性を心配する方がおられますが、使い捨てカイロの温度は、せいぜい70度ですからその心配は無用です。食品の包装袋に入っている乾燥剤・酸化カルシウムとは異なります。酸化カルシウムは水と反応すると数百度まで温度が上がります。

使い捨てカイロを長持ちさせるには、なるべく大気に触れさせないことですから、衣類の間に入れることが必要です。使い終わり硬くなった、うち袋の捨て方ですが、自治体により燃えるゴミ、燃えないゴミの区分が異なりますから注意が必要です。

使い終わった使い捨てカイロの再利用としては、消臭剤としての利用がまず考えられます。理由は活性炭が入っており、活性炭は臭いを吸収する作用があるからです。そのまま、靴に入れてもいいでしょう。効果は少ないのですが、吸水性樹脂が入っていますので除湿剤としての利用も考えられます。使い終わった使い捨てカイロを水で洗い塩分を取り除き、残りを園芸用の土として使うことも可能です。使い捨てカイロに入っているバ-ミキュライトは元々観葉植物の土として使われていますので。

たかがカイロですが、化学と密接に関係していることがわかります。少しでも化学的な視点で身の回りの生活を眺めてみると、結構楽しくなるものです。生活の智慧と言ってもいいかもしれません。

「ハクキンカイロ」と「エコカイロ」の正体

冒頭に登場した「ハクキンカイロ」ですが、これは、使い捨てカイロが登場するまで広く愛用されてきました。この発熱保温の原理は化学と密接に関係しており、「ハクキン」は貴金属の白金、そうです、あのプラチナです。白金は化学反応の触媒として広く利用され、例えば、ガソリン車の排気口から出る有害物質(窒素酸化物など)を浄化する触媒としても使われています。車にはこの触媒が搭載されています。

ハクキンカイロは、注油したベンジン(炭素数5~10の炭化水素、原油を精製して得られ、ナフサや石油エーテルなどとも呼ばれる、衣類の汚れ、和服の襟元などを落とす溶剤)を気化させ、白金触媒表面で穏やかにCO2と水に酸化させるときに発生する熱(触媒燃焼熱)を利用しています。

使う際に、白金触媒を130度以上で加熱するだけで、ベンジンを加熱燃焼させているわけではないので、クリーンな発熱で、一般的な燃焼に伴う窒素酸化物がほとんど発生しません。ベンジンを注油すれば何度でも使える利点があります。使い捨てカイロの13倍もの熱量を発生しますので、寒い中のスポーツ各種や仕事に適しています。

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