「東電の手口はいじめ」協業ベンチャーが怒る訳 合弁相手パネイルは不法行為で提訴する方針

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その後、東京地裁はパネイルによる仮処分の申し立てを認め、S氏について2023年2月末日までPinTでの就業や、同社からのシステムの開発や運用、保守など電気小売事業にかかわるシステム開発の業務の委託を禁止する決定を出した。2020年7月20日のことだった。なお、S氏は決定内容を不服として、仮処分の内容に異議を申し立て中だ。

ところが、前述のS氏のパソコンの調査により、仮処分の後もS氏が電力業務関連のシステム開発にかかわっていたことが判明した。また、S氏のパソコン内部の調査により、実際にS氏がパネイルのクラウドシステムに保管されていたプログラムとうり二つのプログラムをPinT内部で作成していた事実も明るみに出ている。

こうした実態をとらえて、パネイルは「無断複製の事実が裏付けられた」として、東電EPやPinT、S氏らの共同不法行為を問う訴訟を提起する準備を進めている。S氏を相手取ってすでに先行している訴訟の書面でパネイルは、東電EPやPinT、S氏らのやり方について、「原告(=パネイル)が提供する業務を内製化し、ひいては原告を共同事業から排除するための一連の新興企業いじめの流れの中で行われたものである」と主張している。

問われる東電のコンプライアンス

折しも2020年11月27日付けで公正取引委員会は「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」に関する最終報告書を発表。「スタートアップ企業が公正かつ自由に競争できる環境を確保することがわが国経済の今後の発展に向けてきわめて重要」だと指摘している。そのうえで独占禁止法違反行為に対して厳正に対処していくとしている。

なお、独禁法上問題となるおそれのある行為の例として公取委は、無償作業や知的財産権の一方的帰属などを挙げている。

ベンチャー企業の知的財産の法務に詳しい伊藤雅浩弁護士は、S氏からパネイルに競業避止義務の誓約書が提出されていることや、取締役会で元CTOの転籍についてパネイル側の役員から反対の意思表明がされていたことなどの事実に着目し、法的リスク(競業避止の合意違反や不法行為)の可能性を指摘する。

そのうえで「東電EPは現在起きているトラブルの実態を正確に把握し、コンプライアンス上問題がないか分析したうえで、事態の解決を含めた自己規律の発揮が必要だ」(伊藤弁護士)と強調する。

ベンチャー企業の法務を専門とする澤野正周弁護士は、「元の会社から営業上の秘密を不正に持ち出している事実があると認められた場合、当事者のみならず加担した関連会社も不正競争防止法違反に該当するおそれがある」と指摘。「同法違反となった場合、民事上の損害賠償または謝罪広告などの信用回復措置のみならず、刑事罰に問われる可能性もある」(同)と警鐘を鳴らす。

IT化などの事業革新が求められる電力・ガス大手にとって、ベンチャー企業の独自のノウハウはのどから手が出るほど欲しいものだ。しかし、それを入手するには、対等な立場での信頼関係の構築は必須。それが失われたことによる代償の大きさを東電は認識しているのだろうか。パネイルとの紛争が長引いた場合、ほかのベンチャー企業も東電との業務提携に二の足を踏む可能性がある。

東京電力ホールディングスの小早川智明社長ら経営トップには、リーダーシップの発揮による実態把握と、現場任せでない問題解決への努力が求められている。

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