「あなたはフリーランスがいいわよ」
離婚の痛手は大きく、自分でも予想外に落ち込んだ。
「つらかったですねぇ。何がつらかったって、彼を失ったつらさにもまして、役所に提出する寡婦申請を書くとき、子どもの保育園に提出する書類に父親の名前が書けないなど、この子を背負ってひとりで生きていくのだなという覚悟を決めざるをえないときがいちばんつらかった。それまで、わりと順調な人生を生きてきたので、親にも人にも顔向けできないと、立つ瀬がありませんでした」
編集者ら仕事仲間に、「大草さん、離婚したらしいよ」とうわさをされ、嫌な目で見られるのも、苦痛で仕方がなかったそうだ。
「離婚のことを人に聞かれるのが嫌で、自分の殻をものすごく固くしていました。仕事だけやってサッと帰る日々が続きましたね」
だが、救いはあった。35歳前後の女性をターゲットにした雑誌『GRAZIA」編集部から、仕事の声がかかったのだ。
「『GRAZIA』は読者ターゲットが大人なだけに、編集部にいた女性たちもみな大人。私が離婚したと聞いても、『いいじゃん、別に』と流す、デリカシーのある人ばかりでした。こんな大人になりたい、と痛感しましたね」
『GRAZIA』編集部の居心地があまりによく、同誌の版元、講談社が中途採用社員を募集していると聞いたときは、思わず、「私じゃダメですか?」と名乗りを上げたほどだ。
「ところが、当時の編集長から『アナタはフリーランスがいいわよ』と言われてしまって……。離婚したこともあって、安定収入が欲しかったし、またチームで仕事がしたかったのに、就職活動で長銀の担当者に『銀行は向かない』と言われたときと同じ、ていよく拒絶されてしまったと、落ち込みましたね」
後づけだが、さすがは編集長氏、慧眼である。後の大草さんの活躍を、すでに見越していたのだろう。
「どうでしょう。でも、あのとき、編集長にそう言ってもらえなかったら、ここまでフリーランスで続けられなかったかもしれません」
人は、自分では自分を客観視できず、自分の特性を見誤ることが多々ある。だが、他人はシビアかつ客観的だ。自分では気づかない自分の本質を指摘してくれることは多々ある。
「フリーの何がいいかというと、仕事の評価が全部自分に帰ってくること。自分の仕事がよかったら評価され、よくなかったら二度と仕事が来ない。ゼロか100か100%明快なのが、私には向いていましたね。
それに私は、ちょっと怠け者で享楽的。もし、フリーで仕事をしていなかったら、趣味にばかり熱中して仕事を失っていたかもしれない(笑)。自由に見えてすごく厳しいフリーという立場に身を置くことは、自分を律することができるという意味でも、私に向いていたと思います」
(撮影:今井康一)
※後編は6月27日(金)に公開予定です
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