クリーマが貫いた「数字だけで評価しない」価値 なぜベンチャーが「大手資本」に勝てたのか

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そうした利点は既存Creemaユーザーなら承知しているところだが、日本のECマーケット全体を見渡せば、認知が広がっているとは言えない。言い換えれば、まだ市場は伸びる余地があり、ECサイトとして定着しているEtsyが主戦場とするアメリカ市場並みに成熟してくれば、大手との生存競争を生き抜いてきたCreemaは順調な成長を遂げられるはずだ。

さて、すでに損益分岐点を超え、収益性が急速に高まっているCreemaだが、株式公開で得た資金をどのように活用していくのか。

「クリエイターの作品とユーザーのエンゲージメントを高めるため、AI技術などマッチングの質を高める領域に投資する。検索、パーソナライズなどは従来から力を入れているが、さらにブラッシュアップ。ものづくり支援という面では、作品を販売するリアル店舗の展開、流通やクラウドファンディング、広告宣伝、PRのサポートなど、まだまだクリエイター支援の質を高められるところは多い」

そう丸林社長は話すが、同時に数年後はCreemaとはまったく異なる新領域にも挑戦すると話す。

「マーケットプレイスではない新しい事業」

現代美術作家、漫画家、フォトグラファー、音楽家といったCreemaがカバーしていない領域のクリエイター支援を別ブランドのサービスとして立ち上げることも検討しているが、数年後には「まったく新しい事業領域」の開拓を見据えている。

「起業する際、仲間たちと共有してきたのは“目先の利益や商売にとらわれず愛のある事業を創っていく”ことだった。Creemaで培ってきた新規事業立ち上げのノウハウと、2000万から3000万人の女性を中心とするユーザーが日常的にサービスを使ってくれている事業基盤を基礎に、まったく別領域での勝負を考えている」(丸林氏)

実はCreemaとは異なる事業領域に数年後に投資するという計画を、丸林氏は上場時の記者会見で明言した。リスクのある新規事業への積極投資を上場直後に明言するのは異例のことだろう。せっかく現業での成功があるのだから、新規事業を開拓するのであれば、まったく未知数の事業ではなく現業と連続する領域に投資したほうが成功の確率は高いはずだ。

「Creemaは既存のノウハウや人材、システム、資金力で生き残ってきたわけではない。クリエイターと消費者を結びつけ、(ほかにはない)ユーザー基盤をゼロからから作り上げた。このノウハウを用いることで、非連続の(既存事業とは隣接していない)事業領域でも成功できると考えている」(丸林氏)

Creemaに限ったことではないが、マーケットプレイスは出品者と購入者の両方に対し、高いブランド価値を持たなければならない。

購入者に対してよりよいサービスであることは当然として、出品者にとっても「どの店で販売しているか」は、販売している商品、突き詰めれば出品している作家やブランドのイメージを左右するからだ。これは現実の販売店でも同じだろう。一流の百貨店に置かれているのと、場末のディスカウントストアに置かれているのでは、同じ商品でも異なる印象で見られるのは当然だ。

こうした出品者と消費者、両極のユーザーとの信頼関係を生かすことが彼らのノウハウなのであれば、丸林氏のいう“非連続”の事業拡張にも期待が持てるのかもしれない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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