範は歴史にあり 橋本五郎著 ~余すところなく示される 政治リーダーの重要性

範は歴史にあり 橋本五郎著 ~余すところなく示される 政治リーダーの重要性

評者 野中尚人 学習院大学教授

 あれっ、もう終わってしまうなあ。もうちょっと読みたいんだけど--。これが本書の面白さを最も端的に表す評者の一言である。

本書は、すでに名コラムニストとしての名声を勝ち得ている橋本氏の、ここ10年ほどのエッセイ集、いわば精髄である。古今東西の偉人の身の処し方、死生観と家族のきずな、いわゆる健全な保守主義とナショナリズム、帝国海軍の栄光と苦闘、慶応義塾と福澤諭吉論、そして名もない彼の周囲の人々へのオマージュ。人間洞察は時に鋭利な厳しさを放ち、また時には限りない温かさと包容を示す。

評者は、本書から多くの新しいことを学んだ。一例だけ挙げておこう。明治4年末からのいわゆる「岩倉使節団」の訪欧米の途上、サンフランシスコにて、当時31歳の伊藤博文がおそらくは日本人として初めての英語によるスピーチを行った。

「わが国旗にある赤い丸は、もはや帝国を鎖す封印の如く見えることなく、今まさに洋上に昇らんとする太陽を象徴するものであります」

本書では、随所で外交の重要性が説かれ、政治リーダーには「公」への「無私」の貢献を求める指摘がなされるが、この一節を引用した箇所などは、まさに歴史に範を求める橋本氏の面目躍如といった観がある。

政治は複雑だ。デモクラシーや議会など、さまざまな制度やルールがすでにある。しかし民主的な選挙でさえ、時と場所によっては人殺しの舞台になる。

政治リーダーは、不確かな政治制度の荒野における導き手である。彼らこそが、国民の声を聞き、大きな歴史的時代状況を読み解き、そして世界の政治思潮に精通しながら決断し、実行していかねばならない。本書はその難しさと重要性を余すところなく示してくれる。

はしもと・ごろう
読売新聞特別編集委員。1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、読売新聞社に入社。地方部浜松支局、社会部、政治部次長、論説委員を経て、政治部長。その後編集局次長、編集委員を歴任の後、2006年より現職。10年余にわたって読売新聞の書評委員を続けている。

藤原書店 2625円 335ページ

  

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