コロナワクチンで遅れる日本に求められる知恵 公的「投資案件」としてとらえる必要あり

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日本は10年ほど前に、肺炎球菌ワクチンやHibワクチン、子宮頸がん(HPV)ワクチンなどを定期接種に導入(すべて輸入品であるが)してほぼ欧米並みの接種スケジュールとなったが、HPVワクチンによる「副反応」問題で、再度、ワクチン懐疑派の声が大きくなった。

こうしたことを背景に、現在はワクチンの研究開発力も大幅に減退しており、最後の研究開発支援を行う機会である今を逃すと、もはや国内にワクチンの研究開発の基盤がほぼ消滅してしまう危機にある。実際に、引退しつつある日本のワクチン技術者が海外へリクルートされているという現状もあると聞く。

2000年前後からの感染症の世界的流行を振り返ると、1997年の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)、2003年のSARS(コロナウイルス)、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)、2012年のMERS(コロナウイルス)、そして2020年のCOVID-19と、4~5年に1回は世界をパンデミックが襲っており、もはや社会経済や医療の体制はこうした頻回の感染症パンデミックの来襲を前提に組み立てるべき時代を迎えている。

日本国内に研究開発や製造の基盤が必要

このように頻繁に起こるパンデミックに対して、短期間のうちにワクチンを用意するためには、国内にワクチン研究開発や製造の基盤を持っておかないと、毎年、相当量のワクチンを輸入せざるをえなくなり、財政的、安全保障的なリスクが大きい。したがって、国内ですべてを完結させられるワクチンの研究開発および製造のエコシステムが必要だ。

そこで、今後、わが国のワクチン産業政策について求められる考え方や具体的な戦略などについて考えたい。

まずは、人口も増えて豊かになっていくアジアに目を向けることだ。研究開発や製造の基盤を維持・向上させるためには、それなりの大きな市場が必要となるので、出生数が減り続けている日本だけに限定しない考え方が必要だ。市場としての販路だけではなく、研究開発コストを共同負担して引き下げることも可能だし、基礎科学は強いが臨床開発に弱点がある日本を補い、国際共同治験を実施することで開発スピードを上げることもできる。

日本の支援が計画されている「アジア版CDCの設立」やアジア各国のワクチン審査当局への技術支援、日本のワクチンメーカーのアジアへの展開支援などを組み合わせることによって、こうした戦略は一層実現性が高まることとなる。

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