コロナワクチンで遅れる日本に求められる知恵

公的「投資案件」としてとらえる必要あり

次に、ワクチンの有する「外交的ツール」としての価値の認識だ。今回の新型コロナ肺炎用のワクチンについては、欧米だけではなく、中国やロシアも研究開発に力を入れており、自国では開発できない途上国に対して、安価で供給することによって外交関係を強化しようとしている。わが国は、WHOなどが主導しているCOVAX(先進国の共同の出資によって途上国にワクチンを安価で供給する国際的な事業)に先頭を切って協力するなど、一定の存在感は見せているが、やはり直接のワクチン供与国という位置づけは重い。

現状では軍事的な支援という選択肢が制限されているシビリアン・パワーであるわが国にとって、こうした国内外での反対が少ない外交手段は貴重な財産となるはずだ。

ベンチャー発の種を育てるモデルに

ワクチンをはじめとした医薬品の開発のビジネスモデルは、最近、低分子化合物製造モデルからバイオ製品上市モデルへと転換している。つまり、膨大な化合品ライブラリーを持ち、そのなかからトライ・アンド・エラーで時間をかけて会社の内部で開発していく大規模製薬会社モデルから、より臨床に近いアカデミアやベンチャーの生んだ種を投資顧問会社のような目利き力で引き上げ、上市していくモデルへの移行である(今回、英米でいち早く緊急に使用許可されたファイザー社やモデルナ社のワクチンは、いずれもベンチャー発の製品である)。

また、一般的に規模が小さく研究開発費の余裕もないわが国の製薬企業であるが、例えば塩野義製薬のように、戦略的に標的分野を感染症に特化していくというのも競争優位を確保するひとつの方法であろう。

さらに、医学や薬学だけではなく、分子生物学、統計学、遺伝子工学、機械工学など、多様性を持つ幅広い裾野で学際的に総合していくことになり、他分野への波及効果の可能性もある。

産業界の業態変換、学界の学際的研究連携に加え、政府にも求められる役割がある。ワクチンを含む医薬品の研究開発はリスクとコストと切り離せない。だが、今回の場合は、政府が全量買い上げをすることを前提に、通常は開発された後に行われる製造施設の建設・改修を、研究開発開始と同時に大幅な補助を行った。副反応に対しても、メーカー側に明らかな瑕疵(かし)のない場合は国が接種に伴う健康被害に関する損害補償を行うこととなっている。

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