国民が受け身のままでは、改革はできない 見えた!新しい「この国の会議のかたち」

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ところが、「飛び道具」は、iPadを用いた「グラフィック・レコーディング」だった。単純化していえば、ビジュアル議事録だが、もう少し詳しく説明しよう。通常、会議では発言したい人が手を挙げ、司会者が指名して順番に発言する。

「グラフィック・レコーディング」を用いた議論は、発言者は、口頭で発言するとともに、その要点などを自由にiPad上に手書き入力で記録に残す形で進める。その裏方では、司会者の議論の進展に合わせ、発言者が記入した発言の要点と他の発言者のそれとの対応関係(対論、補足、関連情報など)をマッピングして図解する作業を同時進行で行う。ビジュアル議事録の即製というべきものである。具体的なイメージは、「国・行政のあり方に関する懇談会」におけるコ・グラフィック・レコーディングを参照されたい。

「グラフィック・レコーディング」は、会議後に議事内容を見た目にもわかりやすくまとめたビジュアル議事録の域にとどまらない。議場にてリアルタイムで議事を整理し、会議メンバーも議論の進捗状況がビジュアルに理解できて、次なる議論の展開を能動的に考えることを支えるツールといえよう。ここには、従来の政府の会議にありがちな「予定調和的な議事進行」はない。議場の発言者が自分の言葉で言いたい内容を、iPadに手ずから書き入れる。こうして、第4回以降の会合では、「グラフィック・レコーディング」が用いられた。

新しい時代の行政の役割とは?

このように、「国・行政のあり方に関する懇談会」では、政府の会議としては大いに型破り的な形で議論が行われた。会議視聴者とのリアルタイムでのフィードバック討議、ワークショップ形式の議論を活用した意見の掘り起しとその集約、「グラフィック・レコーディング」を用いたビジュアル議事録の即製など、かつてない手法で議論が活性化された。

議論の形式や手法ばかり斬新であっても、その議論の中身が問われる。「国・行政のあり方に関する懇談会」の趣旨に即して最終的に取りまとめられた内容は、要約すると次のようなものである。急速な少子高齢化、人口減少、政府債務の累増を踏まえると、今のままではわが国の社会は持続不可能である。これからの日本の社会を持続可能にするには、価値観や幸福感が変化する中で、暮らしを支えるパブリック(公共)に、国とともに私たち一人ひとりが参画していく「自立した参加型の社会」が新しい国のカタチになろう。

そして、新しい時代の行政の役割は、「あれもこれも」から「あれかこれか」へと変え、「国依存」・「国中心」のパブリックから「国民一人ひとりも共に支える」パブリックに変わる中での、新しい国・行政の形へと変わって行くことが求められる。国民も、「受け身」から「主体的」な個人へと、依存から脱却し、当事者意識を持つことが重要である。そして、パブリックを、「他人ごと」でなく「自分ごと」として捉え、参加して国とともに支える。そうした姿を目指し「参加なくして未来なし」という言葉に集約した。

この懇談会で試みられた手法が、国民の意見の汲み取りや集約のスタイルとして定着すると、行政は国民にとってより身近で「自立した参加型の社会」に近づいて行くだろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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