ゴルフの祭典 魔女の誘惑

プロゴルファー/青木 功

 アメリカのチャンピオンズツアーに今年は2月のフロリダシリーズから参加していますが、ゴルフは何年やっていても難しいものです。

最近感じることはクラブの進化、これになじむのが結構難しい。言ってみればわれわれベテランプロは、昔ながらの道具を使う職人芸で、神社仏閣を建てる宮大工のような仕事人。毎年のように新しいよいクラブができ、それを使ってみろと言われても、体に昔のクラブの使い方が染み込んでいるものだから、新しいものをすぐには使いこなせないというのが正直な気持ちで、シーズン初めはいつもそんな苦労をしてるんです。

さて、マスターズが終わるとゴルフシーズン到来、それは今も昔も変わっていません。人はよくゴルフの祭典マスターズと言いますが、そのとおりの大会ですね。全米オープン、全英オープン、それに全米プロで私が活躍したことはご存じの方が多いと思いますが、マスターズはというと自慢できる成績は残していません。
 全英オープンや全米オープンは、大会の雰囲気に重厚な威厳のようなものを感じますが、マスターズはそれ以上に祭りのような華やいだもので、今にして思うと、何となく浮き足立ってしまうんです。
 月曜日の練習日から2万~3万の人が入り、そのパトロンと言われる観客がお祭り気分でプレーを見るものだから、いつの間にかそんな気持ちがプレーヤーに乗り移ってしまうのでしょう。
 冷静になろうと思っても練習日でも気合が入りすぎてしまうんです。マスターズには14回出場しましたが、結局気に入ったプレーはできませんでした。そのいい例がオーガスタの13番ホール465・(当時)、距離のないパー5です。

アメリカ人選手の中に入るとロングヒッターではない自分ですが、この13番はティショットがうまく当たるとバフィーで2オン可能なホール。そのセカンドでウッドを持つと、見ているパトロンたちから拍手が湧くんです。アメリカ人は果敢なチャレンジ精神を喜ぶんですね。でも、それに乗っちゃいけません。あんな速いグリーンをウッドで狙ってもうまくいくはずがないからです。
 試合では5、6番で刻みますが、練習日はパトロンたちの拍手に応えて、バフィーを持ちます。気負いがない分うまくいくんです。
 試合初日の木曜日、13番のティグランドではセカンドで狙うつもりがないから、パーフェクトなドライバーショット。ところが、セカンド地点に行くと、「ホラ、ピンを狙って」と、オーガスタの魔女がささやくんです。毎年その魔女のささやきにだまされ、マスターズはいい成績は残せませんでした。
 今だったらどうかというと、やっぱりウッドを持つでしょうね。それがゴルフの祭典、マスターズなんです。

プロゴルファー/青木 功(あおき・いさお)
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エイジシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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