農業を志す若者の心得
塩野:都会を離れて、自分の気持ちやライフスタイルは変わりましたか。
木村:はい。昔から僕は意見がどぎついというか変わり者なので、それに辟易している人たちは、それがさらにひどくなったと言います(笑)。自分のやりたいことに素直になりましたね。
塩野:でもそれは、ストレスがなさそうでいいですね。
木村:そういうタイプのストレスはないですね。ただ純粋に農作業をしているときは、どうやっても時給500円は超えません。
塩野:どうやっても? それ自体は構造的な問題ではないのですか?
木村:そこはほかの仕事でバランスをとればいいと思っています。時給を上げるために加工品もやろうとか、GPSやトラクターを使って大規模にやろうとなった瞬間に、全然、面白くないことになっちゃうわけですよ。今の貨幣経済が本質的な価値とずれているので、しょうがない。たとえば、お茶碗1杯分のお米って、たぶん原価10円とか15円です。「ほんとか」と思いますよ。
――1日どれくらい農作業をしていますか。
木村:そうですね。1年中毎日はできていません。日本の法律では年間150日以上農業に従事する人が認定農家とかっていう規定がありますが、イメージではそれ以上はありますね。夏はだいたい毎日やっています。
塩野:最近、農業を志す若者が増えています。食品偽装の問題など食への不信感があるから、自分たちで本当にいいものを作りたいという想いがあるようです。そういう農業関係の仕事に従事したいという人に、「これだけは考えておけ」ということはありますか。
木村:一生誰にも会わず、頑張っている自分を見てもらえなくても、作物を作っていれば幸せならやったほうがいいと思いますね。「畑を耕している私を見て『いいね!』ボタンを押して」という人がすごく多いのですが、それは違う。日々の作業自体に、やりがいを感じられる、そこにベースがないと幸せにならないと思います。
塩野:農業そのものが好きかどうかってことでしょう?
木村:そう。今は承認飢餓社会じゃないですか。このご時世に若者が農業をやったら褒められそうという動機なら、やめたほうがいいですね。
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