――セロリとニンニクはなんで選ばれたのですか。
木村:収益率です。理論収益率は、実は作物によって全然違うのですが、そういう理由で作物を選ぶ農家がほとんどいない。農協がこれを作ってくれと言ったからとか、この場所は昔からこれだからとか、そういう理由で主体的に選んでいないケースが多い。ニンニクは普通に考えてほかの作物より儲かりやすいわけですよ。スーパーに行くと、国産は中国産の3倍くらいの値段になっていますから。
塩野:そうですね。国産ニンニクは高いけれど、そちらを選びますよね。中国産はやっぱり日本産よりは味もよくないし、潜在的な農薬も怖い。
木村:僕がニンニクを作っているのは過疎化している地域で、アクセスは悪いけれど、土がめちゃくちゃいい。ニンニクのような根っこの作物は、農地さえよければ、頻繁に手入れしなくてもできます。単価が高いので物流も自分で仕立てる必要がなく、宅急便でいい。収穫と植え付けのタイミングがすごくシビアなので、労働力のピークは集中するという難しさがありますが、お手伝いの人たちは僕が東京から連れて来ることができる。
塩野:そういうふうに言われると納得しますね。木村さんのように、マネジメントを意識している農家は増えているのですか。
木村: 30代で売り上げ1億円以上の専業農家はけっこういますよ。そういう人たちはすごくいろんなことを考えてやっていますね。僕なんか彼らに比べれば全然ひよっこです。
初年度はほかにも個人向けにいろいろ作りました。でもボロボロだったものもいくつかあって。
塩野:へえ、虫とかですか。
木村:ひとつはセロリが思ったより全然できなかったこと。僕の労働時間の3割は徒労と化しましたね。セロリって、茎を太くするために、周りに出てくる脇芽というのを取らなきゃいけない。それが取っても取っても脇芽しか出てこなくて、結局、真ん中の茎が大きくならないという目に遭いました。それが1万株ですからね。
塩野:1万株といっても株式じゃない(笑)。
木村:本当はそれが大きくなると、1株400円、500円とわりと高く売れるし、売り先のメドもつけてあったのですが、それがゼロになった。規格に合わないとスーパーに出せませんから。
それからレシピサイトのクックパッドさんが野菜販売を始めるという話があり、僕も珍しい野菜で差別化したいという気持ちがあり、提供しました。個人に宅配して箱を開けると「これ何、見たことない!」となれば、調理方法を知るためにクックパッドを見るはずです。面白い企画だと思った。ただ、全然、出ませんでした。
塩野:敗因は何でしたか。
木村:クックパッドに依存したことですね。僕が勝手に、クックパッドがやることを自分本位で期待をして、甘かったということです。
塩野:今、クックパッドはデータ解析でスーパーと提携を始めていますから、アライアンスの難しさかもしれません。
木村:2年めは自分の知り合いに営業して、知り合いの知り合いに売っていただくとか、いろいろやってなんとか形になりましたが、1年めはだいぶ失敗しましたね。
塩野:そこでしょげなかったですか。
木村:しょげませんでしたね。畑にいるのが好きだし、いろんな農家と出会ったから。ちゃんと作っている若い農家は、全員もれなく魅力的ですよ。彼らに認められたいし、彼らと切磋琢磨して仕事をしたいという気持ちがありました。
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