連れ子3人を愛すタクシー運転手の数奇な人生 運命のマクドナルドでの出会いから9年

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高木が75歳まで働いてローンを完済するためには、いずれは個人タクシーをやるしかないが、東京で個人タクシーを開業するためには、東京に1年以上居住していることが条件になる。

だからといって、単に東京に部屋を借りただけではダメで、水道光熱費の領収書などを提示して生活実態があることを証明しなくてはならない。これをタクシー業界では「越境」と呼ぶ。高木はこの先のどこかの時点で、1年間越境をしなくてはならない。その間、マッチ箱の家では血のつながっていない4人の家族が暮らすことになる。

「もともと私は、石橋をたたいても渡らない性格でした。でも、乗りかかった船ですから、先に進むしかありません。立ち止まっている余裕はありません。疲れたとも言えません。将来、子どもたちに面倒を見てもらいたいとも思っていません。ただ、子どもたちをなんとかしてあげたいと思うだけです。これから先、私のことをどう感じてもらえるか、いまはそれしか考えていません」

高木は新人のドライバーが入ってくると、「努力した分は必ず自分に戻ってくる」とよく言うそうである。有形のものが戻ってくるとは限らないが、なにかが戻ってくるというのは本当かもしれない。

長女からの手紙

昨年の春、長女が難関の県立高校に合格した。中学校の卒業式の日、高木が仕事を終えて家に帰ると、テーブルに長女の手紙が置いてあった。

『東京タクシードライバー』(朝日文庫)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「お父さんとお母さんに対していつもうざいとか言って、ごめんなさい。本当は感謝しているんだよ。いろいろやってくれて助かるけど、もう自立できる。自分でなんでもできるんだよって、書いてありました」

高木は目を細めながら、

「私は親ばかで心配性なもんで、なんでもやってあげちゃうんですよね」

と言う。

下のふたりの子に実の父親でないことを伝える必要は、もうないだろう。

山田 清機 ノンフィクション作家

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やまだ せいき

1963年富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(いずれも朝日新聞出版)がある。

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