日本人は「移民は優秀な人」だとわかっていない 出口治明×上野千鶴子「働き方を変えるには?」

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出口:そのように忖度されたものであれば、同一労働同一賃金には、あまり意味がないということですね。文字通りの同一労働同一賃金ではないと。

上野:はい。だからヨーロッパの同一労働同一賃金と言葉は同じでも、日本の同一労働同一賃金は似て非なるものです。

正規、非正規の壁を崩す適用拡大

出口:僕は働き方を変えるためには、社会保険の適用拡大がいちばんの基本だと思っています。

今の社会保険の制度は、年金で説明すると国民年金保険と厚生年金保険に分かれています。厚生年金保険は月額20万円くらいもらえるのですが、国民年金保険は6、7万円くらい。なぜこういう格差があるかというと国民年金保険は自営業者の年金で、店番ぐらいできるから一生働けるよねと。

上野:当時の厚生省の役人の頭にあったのは、農家世帯でしょう。今より短命で、死ぬ前日まで畑に出ているおじいさん、おばあさんの小遣い程度でいい。これが彼らのアイディアです。

出口:死ぬまで働いているからという発想ですよね。

上野:平均寿命が70歳くらいならそれで済んだんでしょう。

出口:僕が考える日本のいちばんの問題は、厚生年金保険で本来カバーされるはずの被用者の中で最も力の弱いパートやアルバイトが国民年金保険に追いやられているということです。1300万人くらいいます。この人たちを厚生年金保険の対象にすることが適用拡大です。

これをやれば、正規、非正規の区別にはほとんど意味がなくなって自由な働き方ができます。ドイツでは「シュレーダー改革」の根幹の1つで、競争力のない企業は社会保険料の負担が重くてやっていけなくなるといいますが、むしろそういう企業は淘汰されたほうが経済の足腰は全体として強くなるのです。

上野:はい。それだったら扶養控除はなくしてほしい。

出口:もちろんです。

上野:1時間働いて1時間稼いだ分から納税者になるという仕組みですね。

出口:だから適用拡大を行うと、第3号被保険者がほぼ自動的に消えるのです。

上野:それができない理由の1つに専業主婦の妻のいる会社員労組の反対もあります。

出口:そうです。労組は原則として正規労働者のことしか考えていないように見えて仕方がありません。

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