アダム・スミスは『国富論』で「国防は富裕よりも重要だ」(“defence is of much more importance than opulence.”)と述べ、自由貿易を超えた安全保障の論理を認識していた。しかし、植民地貿易といった特殊な貿易形態をなくせば、自由貿易で国は豊かになり国防力も増大するとし、ハーシュマンから見れば、依存が作る「影響力効果」への認識が不十分であった。
われわれはいかに対応したらいいか。ハーシュマンは、貿易のメリットを生かしつつ、「影響力効果」を減らすため、貿易規制権限を各国から国際機関に移管することを主張。実際に国際社会はその後、GATT締結、WTO設立と貿易規制権限を国際組織に移管していく。
しかし、国際ルールは完全でも網羅的でもない。中国はこの隙間を利用し、自らの措置をオーストラリアのダンピングに対する対抗措置、検疫や環境に関連した措置などと主張、「経済的恫喝」とは認めない。日本が主権を有する尖閣諸島に関連して中国が2010年に行った日本向けレアアースの輸出停止も、中国は環境問題が理由と主張した。
中国の「経済的恫喝」に屈しないために
こうした状況に鑑みれば、WTOというマルチの機能の強化に加え、同志国の連携強化も必要だ。筆者は「世界が中国の『経済的恫喝』に屈しないための知恵」(2020年7月13日配信)において、「自由連合基金」を提案したが、同基金の第1段階の機能である同志国が共同して中国の「経済的恫喝」を認定し非難する枠組みは「抑止力」としても有効だ。同志国で真剣に議論が行われるだけでも一定の抑止的効果があろう。
いじめっこに声を上げるのは勇気がいる。自分が直接いじめられていなければなおさらだ。しかし、いじめは成功すれば繰り返される。今日のオーストラリアとの連帯は、明日の日本を守ることなのだ。国際的に許容されない「経済的恫喝」への反対は、中国に対しても誠実な態度だ。
ハーシュマンは『国力と外国貿易の構造』を書いた34年後の1979年に「非対称性を超えて」(Beyond Asymmetry)という小論を記した。その中で、貿易から生じる依存は非対称で大国が有利だが、小国が経済的懲罰を甘んじて受けるのか、自由のために戦うのか、その意志や士気も影響すると述べる。同志国が連帯して意志を示すことは、いじめの抑止への重要な一歩だ。
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