脆弱性克服のためにできることは他にもある。重要物資が1カ国へ過度に依存している場合、その分散や、国内生産能力の強化も有効だ。また、日豪印、日アセアンでもサプライチェーン強化の議論が始まっているが、アメリカ等とも協力しこの動きを拡大することは意義がある。アセアンやインドへの企業立地の促進には、インフラ整備を含めた投資環境の改善も必要で、日本がそのために協力できる。
また、石油等と同様に、重要物資の戦略備蓄の強化も大切だ。さらに、GATT第20条(b号)では生命・健康に影響する場合には自由貿易原則の例外として貿易制限が認められるが、それゆえに危機時に重要物資の入手が困難になる。輸出制限措置を制約するような国際ルールの変更、あるいは、そうした例外措置を用いないという同志国の合意は、危機時の重要物資の調達の安定性を高める。オタワグループを含め、そうした動きがすでにみられることは心強い。
偽装した保護主義とならないように注意
最後に、サプライチェーン強化が偽装した保護主義とならないよう注意を払う必要もある。すべての工場を国内回帰という政策は、国力を弱める。アメリカでよく聞く「経済安保は国を守る」(Economic security is national security)という主張は正しい(ハーシュマンの言う影響力効果)。
しかし、経済成長は国力を高め国防費の増加を支え、国の安全も高める。その意味で、「経済も国を守る」(Economy is also national security)(ハーシュマンの言う供給効果)。日本は経済安保のさらなる強化が必要だが、アメリカ内で一部見られる経済安保に名を借りた保護主義は、経済を弱めることで安全保障も毀損する。そうした陥穽を避け、適切な経済安保政策で貿易相手国からの影響力効果をコントロールしつつ、貿易が生む供給効果で国を豊かで強くすることこそ重要だ。今われわれは改めてハーシュマンの知恵に学ぶ必要がある。
(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)
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