日本企業は「現場のインド」を知らない

インフォブリッジグループ 繁田奈歩代表(上)

繁田:日本では、ターゲットとする人たちの平均値を見れば、「だいたいこんな感じの人たち」とわかるじゃないですか。でもインドではお金持ちから貧乏な人まですごく差があるので、調査結果を対象人数で割っても意味がありません。そもそも平均値に当てはまるインド人がほとんどいないのです。それなのに平均値を見て分析しようとするとか。

あとは前提条件を決められない会社が目立ちます。インドは貧富の差も含めてクラスターによる差が大きいだけに、ターゲットを明確に絞らないといけないのですが。

日本の報道とのズレ

三宅:なるほど。日本からの依頼がズレるのはある程度は仕方がないとしても、インドに進出している企業からの依頼だったらそこまではズレませんか?

繁田奈歩(しげた・なほ)
1975年愛知県生まれ。2000年東京大学教育学部卒業。大学在学中からインドでのバックパッカー向け旅行会社の設立や、インフォプラント(現マクロミル)の設立に携わる。2002年にインフォプラント社取締役に就任。同社海外担当取締役として中国子会社を立ち上げた後、2006年に独立し、INFOBRIDGE HOLDINGS GROUP LIMITED.を設立、CEOに就任。現在は、インフォブリッジグループの代表として、インドでのマーケティングリサーチ、マーケティングコンサルティングなどを手掛け、国内外の企業のインドでの事業展開を支援。

繁田:もちろんそこまでは大きくはズレませんけど、少し雰囲気の分かるトピックスをお話ししますと、何年か前に、インド6億人に影響するような大停電があったのですが、それを知らなかった日本人駐在員がけっこういました。街に出たら信号から何から止まっている。でも立派なビルにオフィスを構えて、非常用発電機が24時間稼働する家に住んでいると、停電があったことにも気がつかない。日本から「大丈夫?」というメールが来て停電を知ったという人たちがいたのです。街では信号が動いていないから、警察官が交通整理をしている。それでも追いつかず、ぐっちゃぐちゃな状態です。そんな中、私がお客さんのところに何とかたどり着いたら「え!停電ですか?」なのです。「世界中のニュースですがな」って突っ込みたくなりました(笑)。

三宅:すごいですね……。ところで、ちょっとクリティカルな質問をしちゃいますけど、調査を依頼してくる企業は、「インドに出よう!」と思って依頼してくる、というのと、「インドでは商売できない」と証明して欲しいというのでは、どっちに近いでしょうか。

繁田:「やめといたほうがいいですよ」という結論を出してほしい、みたいな空気はけっこうあります。もしかしたら「全社一丸となってインドで事業を大きくしよう」と本気で思っている会社のほうが少ないかもしれません。創業社長が「これからはグローバルだ。ほとんどの会社は中国・東南アジア止まりだけれど、ポテンシャルも大きいインドまでを視野に入れてやる」と言っても、現場は「今は中国とインドネシアでいっぱいいっぱいです」という感じで、温度差があったりしますよね。

それから日本では今、「インド経済失速」なんて言われていますよね。「クルマが全然売れません」とか、よくもまあこんなにネガティブな情報ばっかり拾ってくるよね、と思うのですけど、じゃあ現地が本当に停滞しているかというと、別に全然暗くはない。

実際は、現地はもっと元気なのです。だからインドにいる日本企業の若手にしてみれば、今すぐ始めないと競合も入ってくるし、インドの会社も力をつけてくる。ということは時間勝負だから、「インド経済は、日本で報道されている以上に動いていますよ」と日本の本社に言いますが、それに対して本社の人からは、「新聞には、インドは景気が悪いと書いてあったよ」と言われてしまう(笑)。「見たいものだけを見よう」という雰囲気は、残念ながら強い気がします。

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