「仕事をいただけるのはありがたいのですが、ただちょっとズレているなと思うこともありました。日本での軍事アナリストの仕事って、“カタログデータ”を出して検討することなんですね。例えば、この銃は(資料によると)何メートル弾が飛びますよ、とか。ただ現場で働いていると、データと実際には大きな隔たりがあるって現実がわかる。でも僕は彼らのように上手く解析、解説はできない。
大学教授と、叩き上げで現場で働く職人の違いのようなものを感じました。
ただ、マスコミで必要とされているのは、大学教授の意見なんですよね。だから名刺の肩書には、軍事アナリスト、軍事ジャーナリストとは書いていません」
ただ実際に戦場に行っていなければわからないことはたくさんある。日本の自衛隊は、戦後実戦経験がまったくない。高部さんは自衛隊に呼ばれて講話を頼まれることもあった。
「僕も元自衛官ですから、彼らが持っていない経験を教える、共有できるというのはうれしいですね。僕の経験が少しでも役に立ってくれれば、と思います」
日本は現在平和であり、ほとんど街中で戦闘が行われることはない。ただフィクションの中では、たびたび戦闘が繰り広げられる。
高部さんは、ドラマや映画での戦闘シーンの監修を頼まれる。映画『寄生獣』、ドラマ『S -最後の警官-』など、人気作品に多く携わってきた。
「例えば『ここの道路を封鎖するにはどうしたらいいか?』などシナリオ上の具体的な相談を受けて、『こういう場合は、このビルを爆破して道を防ぎましょう』という感じで答えています」
傭兵時代のエピソードを漫画に
傭兵時代のエピソードをつづった本も『傭兵の誇り』(小学館)、『戦友 [名もなき勇者たち]』(並木書房)などたくさん出版してきた。
「どうしても“傭兵”って、アウトロー、戦争の犬、みたいなシビアなイメージを求められるんです。皆の傭兵に対するイメージって『ゴルゴ13』(小学館)のような冷徹なかっこよさなんですよね。もちろん、頼まれれば書くのですが、どうにも恥ずかしいんですよね(笑)」
そんな折に依頼が来たのが、竹書房での
『日本人傭兵の危険でおかしい戦場暮らし』(竹書房)の連載だった。
「かっこつけた漫画になったら嫌だなと思ったんですが、漫画家のにしかわたくさんの絵を見て、この絵なら大丈夫だなと思いました。単行本の表紙は、青ざめながら走っている僕なんですが、まさにこんな感じの場面が何度もありました(笑)」
漫画内では高部さんが戦場で経験したさまざまなエピソードが描かれている。
もちろん戦場が現場だから、凄惨なシーンもあるのだけど、仲間同士ではしゃいだり、友人の恋を応援したり、あまりに不味い飯に辟易したり、と楽しげな青春譚もたくさん描かれている。
「実際、戦場では笑いあり、涙あり、ケンカもして、馬鹿もする。そんな雰囲気でした。傭兵たちの意外だけど当たり前な一面を知ってもらえたら、うれしいですね」
と高部さんは語った。
高部さんは、筆者がインタビューした数多くの人の中でも、とくに親切で優しい雰囲気の方だった。
話を聞きながら、その優しさの源泉は、苦しい状況を自力で乗り越えてきたという自信にあるのではないか? と思った。
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