「投資は自己責任」の意味を誤解していないか 専門家の「予測の当たり外れ」をどう考える?

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以上述べたことの多くは、筆者の近著『コロナ禍を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法』でもふれているが、さらに筆者がセミナーで講演する際に、ときおり参加者にお話しすることを加えたい。

上述のように、投資は自分で責任を取る限り、何をやるのも自由なので、短期の投機的な売買を行うのもまったく差し支えないと考える。ただ、多くの短期売買を主軸とする投資家の方がかなり誤解しているように感じるのは、「短期売買でいちばん大切なのは、見通しを当て続けることだ」と考えている人が多いことだ。

つまり「毎日、毎週、今度は株価が上がる、これからは下がる」という見通しをほとんど当てれば売り買いで大儲けできる、と思っている人が多いように懸念する。

実は、短期見通しは、誰が作成してもほとんど当たらない。というのは、短期の市況動向は、ノイズ(雑音)、たとえばたまたま降ってわいた一時的な好材料や悪材料、投資家の全体的な心理の揺らぎ、偶然持ち込まれた大口の買いや売りなどで、想定外の方向にいくらでも振り回されるからだ。

「短期」「長期」それぞれで大切なこととは?

ということは、短期投資(投機)で大切なのは、ポジションの管理だろう。予想と反対方向に株価などが動くことが常時起こるので、どこまで損失が出たらポジションを投げて整理するのかが肝要だ。自分の見通しが大当たりしたらどのくらいの金額の利益が出るかなど「捕らぬ狸の皮算用」をするより、大外れした場合の損失金額の見積もりを事前に立て、大損を食らうことを回避することのほうが、ずっと重要だ。

『コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法』(KINZAIバリュー叢書)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

逆に「長期投資に徹しよう」という人が誤っているのは、長期投資では見通しはまったく重要ではなく「長期にずっと保有していれば大丈夫」あるいは「毎月定額で積み立て投資すれば問題はない」、ということを唱える人が多いことだ。

もちろん、積み立て投資というやり方は、ある程度有用なやり方だし、世界株全体が10年、20年と下落し続けるということはないだろう(もしそうであれば、そもそも株式投資自体しないほうがいい)。

だが、たとえば個別銘柄で考えれば、ある企業がどんどん傾いていって、最後に経営破綻するということは、いくらでもある。そうした場合、その企業の株を一度にドンと買っても、毎月少しずつ買い貯めていっても、どちらにしろ大損だろう。

また、日米等の主要国の株価指数が長期的に下落し続ける、ということはめったにないとしても、新興国なら戦乱や政治体制の崩壊などで、特定の国の株価も通貨も長い間下げ続ける、という展開は否定できない。

つまり、長期投資の場合は、長期保有するかどうか、積み立て投資をするかいっぺんに買うか、などの投資手法の選択はそれほど重要ではなく、実は長期的な市場見通しを当てることのほうがよほど大切だ。

しかし実際には、短期投資家がポジション管理を含む投資手法より見通しが大事だと考えており、長期投資家が見通しより投資手法が重要だと考えていることが多い。これはまったく逆ではないか、と感じている。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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