築地市場からノーベル賞経済学者が学んだこと 元コンサルの学者離れした「オークション」理論

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ミルグロムは大学教員になる前にはアクチュアリー(保険の数理的設計をする職業)であり、大学教員になってからも企業コンサルティングに従事している。その経歴も、実用性重視の姿勢を物語っているようである。理論家として卓抜しているが、構築した理論が実効的かどうかに真摯にこだわる、いや誤解をおそれずに言えば「学者離れした」こだわりをみせるのがミルグロムという研究者の特徴であり凄みであった。

そんなミルグロムの問題意識、アイデア、理論実装、検証、実施、反省点まで、その格闘の軌跡とともにまとめられているのが『オークション 理論とデザイン』である。

先行するオークション理論を丹念に検討しつつ、自身の新規的なアイデアを検証結果とともに披露する第一級の経済学教科書でありながら、「オークション理論が真に認められるためには、実際に機能させるしかない」という執念が論運びや数式にまで滲み出る、そのような不思議なテンションを湛えている。

見どころは多いが、とくに彼の画期的な成果である「同時競り上げオークション」を本人の丹念なレクチャーで見られるのは、本書の最大のポイントだろう。

ミルグロムが見た「築地市場」

ミルグロムは日本にも訪れている。1998年に来日した際に、友人の研究者(ジョン・マクミラン)と築地市場を見学している。

巨大な市場が実用的かつ迅速に機能している、その”競り”を驚嘆しつつ眺めていたと語っている。見学のあと、ミルグロムはマクミランと場内の寿司屋に入り、刺身を食べ日本茶を呑みながら、その目で直に見たことを議論したという。

同時進行的に行われる、それぞれが独立しつつ全体が調和する結果を生み出す、その巨大な”経済装置”は、ミルグロムという経済学者の目からは一味も二味も違って見えたに違いない。その経験が、その後の彼の理論構築にもつながっていったようである。

翻って、築地市場を擁した日本の、これまでのマーケット・デザインの取り組みは、十分に豊かなものだっただろうか。社会善の実現のためにマーケット・デザインの洞察をもっと活かせる場面はないだろうか。貴重な周波数の割り当て、研修医・教職インターンのマッチング、臓器提供、保育園のマッチング、社員の配属のマッチングといった分野にもし応用ができ、より改善ができていくとすれば、それは設計する経済学者の名声以上の恩恵をもたらすのではないか。

ミルグロムの気迫あふれる記述は、そのように囁いているようである。

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