築地市場からノーベル賞経済学者が学んだこと 元コンサルの学者離れした「オークション」理論

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携帯電話などで使用する周波数帯のオークションは多大な収益を生むことになったが、それ以前はといえば、単なる抽選や関係者ヒアリングで割り当てが決定されていた。

ヒアリングには調査費用と時間がかかるが、そのわりにはマッチングがうまく行われているとは到底言えなかった。簡単に言えば、社会的に最善のプレイヤーにより高い価格で落札されることがよい結果とすれば、それには程遠いものだった。

市場のメカニズムの利点は、いわば並行処理されるコンピューターのごとき計算を瞬時に自律的に行えるところにある。市場の持つこのパワーで資源の配分調整を行えることが、マーケット参加者と社会に大きな恩恵を与える。

経済学で理論的にも確認されていた市場のパワーだが、単純な取引であればまだよいが、実際には少し複雑な市場になるとすぐにうまく機能しなくなってしまう。「市場は神童だが風邪もひきやすい」というわけだ。

その難点を市場の設計(マーケット・デザイン)の工夫によって解決し現実的に機能させよう、そしてできるならより広範な市場で機能させよう、というのがこの分野の動機であり目的であった。

それはいまや現在進行系で目覚ましい成果を上げており(最新論考でいえば『ラディカル・マーケット』)、”役に立つ経済学”の筆頭分野として挙げられるまでに至っている。

2020年のノーベル経済学賞

そして今年(2020年)にはポール・ミルグロムがノーベル経済学賞を受賞。スウェーデン王立科学アカデミー経済学賞委員会は「基礎理論から始め、実社会に応用し、それが世界に広がった。彼らの発見は社会に大きな利益となった」とその理由を語っている。

ミルグロムは紛うかたなき理論家である。それも主流とは言いがたい立場の理論家として長い時間を過ごしていた。彼はオークション理論の可能性にいち早く気付いてはいたが、その有用性に関して経済学界そして行政関係者の評価は当初冷ややかだった。

まず、1つ目の武器である「ゲーム理論」自体へのアレルギーが1980年代当時、経済学には存在した。マーケット・メカニズムにゲーム理論的なアプローチを導入することはいまでこそ常識であるが、それが常識となるまでにはそれなりに長い議論が必要だった。

つぎに「理論か事実か」の論争だ。彼にとどまらず経済学者は往々にして実務者からこのような批判にさらされるのが常である。ミルグロムはオークション理論を「美しい」とよく表現する。それは理論家ならではの感想だと思うが、同時に「役に立つか」を冷静かつ徹底的に考えていく。

理論が役に立つかどうかは、実際に検証されなければならない。“美しい”理論の実効性を検証するためには実験が必要で、ミルグロムは実験経済学的アプローチで自身のアイデアを徹底的にロードテストしながら、納得がいくまで試行錯誤を繰り返し、理論へのフィードバックを行っていった。

行政担当者および世論の評価も非常に重要である。施策が失敗したときに責任が発生する担当者や、デメリットを直接被ることになる企業家たちが新しいアプローチに逡巡するのは無理もなく、「研究者の社会実験に付き合う気はない」というわけである。

オークション理論が真に認められるためには「実際に機能させるしかない」。ミルグロムの並々ならぬ決意があっただろうことは想像にかたくない。

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