「クラウン」SUV化、4ドアセダン終焉の可能性 自動車の基本形、セダンの成り立ちと未来予想

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いずれの場合も、SUVが単独で生まれたわけではなく、土台となる技術は乗用車によって築き上げられてきた。となれば、クラウンの車格を持つSUVが誕生するとしても、それは4ドアセダンのクラウンが高い性能を備えて存在してはじめて実現することであり、4ドアセダンに代わるSUVがいきなり開発されることはないはずである。舗装路での日常的な走行性能や快適性を備えたSUVをゼロから築き上げていくことは容易ではない。

将来を見通せば、SUV人気もいずれ影が薄くなる日が来るに違いない。なぜなら、ミニバン同様に、一度SUVを体験した人たちが、次の選択肢として必ずしもSUVを必要と感じなくなるときが来るはずだからだ。

高齢化社会で再発見する4ドアセダンの価値

高齢化社会が進展するにしたがい、ミニバンにしてもSUVにしても、座席位置の高いクルマへの乗り降りがしにくくなる。すでに私(65歳)でさえ、SUVに乗り込むのが大変であったり、SUVから降りる際に地面に足が届かなかったりなど、不自由を感じることがある。車外へ飛び降りるなどしたら、怪我をする懸念さえ歳を重ねると生じるのである。

翻って、4ドアセダンが総合的にあらゆる性能や利便性を満たした車種であることはすでに述べた。ステーションワゴンを含め、それら背の低いクルマへの乗り降りは高齢者にとっても楽だ。さらに、やや屋根の高い4ドアセダンやステーションワゴンであれば、頭をぶつけるなどの心配も減り、腰の曲がりにくくなった高齢者にも不都合はなくなるだろう。

従来のままの4ドアセダンでいいかどうかはともかくも、4ドアセダンやステーションワゴンという価値はなくならないと思う。

そのうえで、現行のクラウンが発売から2年を経てなお、月販台数で30位台にあり、毎月数千台の販売を安定して確保している状況からすれば、トヨタがそのような売れ筋のセダンを手放すわけがない。また65年に及ぶ歴史のなかで愛用し続けてきた優良顧客の代替となる4ドアセダンをなくすはずもないのである。

ただ、時代に即したクラウン格のSUVが、派生車種として誕生する可能性は残されるだろう。それはトヨタのほかのSUV同様、魅力あるクルマとなるはずだ。

4ドアセダンが売れないと言われる今でも安定した販売台数を記録している現行クラウン(写真:トヨタ自動車)
御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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