怖がりな登山家が「経営で大成功」した納得の訳 モンベル創業者が語る経営者としての心構え

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闇に耐える。孤独に耐える。コントロールできない自然の中で、自分の心をコントロールする。圧倒的な自然の中に、あえてひとりで飛び込んでいくことに、「孤独の美学」のようなものを感じることができたのです。

太陽の力は偉大です。そのあたたかさは、前を向く力を与えてくれます。かつて、マイナス30度の過酷な環境下でビバーク(緊急的な野営)を余儀なくされたことがありました。眉も凍るほどの寒さの中、待ち望むのは太陽です。

ビバーク中、極度の疲労状態から眠気に襲われ、ついウトウトとストーブの前で眠り込んでしまいました。ハッと目が覚めたとき、身につけていた手袋とダウンジャケットに火が移り、燃えていました。ツェルト(軽量の簡易テント)の中を羽毛が舞っているのを見て、一瞬「鶏小屋かな?」と錯覚を起こすほど(笑)、心身ともに追い込まれていたのです。

太陽には人を励ます圧倒的な力がある

それでも夜が明け、太陽が上がってくると生気が戻ってきます。滞っていた血流が勢いよく流れ出すような活力を覚えました。あれほどつらくて、あれほど不安だったのに、太陽に包まれたとたん、希望に満たされる。太陽には、肉体的にも、精神的にも、人を励ます圧倒的な力があります。

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私は何度も、太陽に助けられました。厳しい状況に追い込まれ、生死の境に立たされながら、それでも私の心が折れなかったのは、「耐えて待てば、必ず日が昇る」「日が昇れば、新たな希望が生まれる」ということがわかっていたからです。

山は、心を強くします。日本では古来、山岳信仰があります。寺院の門を「山門」と呼ぶのは、お寺が山に建てられていたからです。山伏(修験者:山へ籠もって厳しい修行を行うことにより、悟りを得ようとする者)が修行の場所に山を選んだのも、人間の日常生活からはかけ離れた「神仏の宿る場所」として崇めていたからです。

私は特定の宗教を持ちませんが、それでも山に身を置き、「暗闇の中でひとり朝を待つ」という経験をするなかで、「平常心を保てる心の強さ」を身につけた気がします。

辰野 勇 モンベル創業者

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たつの いさむ / Tatsuno Isamu

モンベル創業者、会長。登山家。京都大学特任教授。1947年大阪府生まれ。少年時代、ハインリッヒ・ハラーのアイガー北壁登攀記「白い蜘蛛」に感銘を受け、山一筋の青春を過ごす。1969年アイガー北壁日本人第二登(当時世界最年少)を達成。1970年日本初クライミングスクール開校、75年登山用品メーカー・モンベル設立。1991年日本初の身障者カヌー大会をスタートさせるなど社会活動にも力を注ぐ。東日本大震災では、阪神淡路大震災以来の「アウトドア義援隊」を組織しアウトドアでの経験をいかした災害支援活動を指揮。びわこ成蹊スポーツ大学客員教授、天理大学客員教授。

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