人生を変えた早稲田大学
――森永さんは、早稲田大学出身ですが、そこからファッションを志したきっかけ、または、ファッションを始めた最初の頃の話を聞かせてください。
もともと、洋服作りをしようとして大学に入ったわけではなくて、ファッションは、普通に自分で着るのが好き、というタイプでした。それが、1990年代の終わりくらいで、洋服としてはすごく面白いものがでていました。
モード全盛の時代で、見たこともない造形の洋服や、こんなのが着られるのか、というようなのが平然と並んでいたり。ファストファッションもなかった時代ですし、洋服を買うことに対しての意識というのも、もうちょっとイージーではないような時代でした。僕は、すごく面白い洋服を着るのが好きなタイプだったんですけど、それを仕事にするつもりはなくて、普通に大学受験をして、普通に生きようと思っていました。
――普通にというのは、会社員としてということですか?
そうです。そうだったのですが、早稲田大学に入って、当時、大学内でファッションショーをやっている神田恵介さんという先輩がいて、すごくビックリしたのです。
彼は今、KEISUKE KANDA(ケイスケカンダ)というブランドで活躍するデザイナーですが、入学してすぐに、彼のファッションショーがありました。生まれて初めて見るファッションショーだったのですが、そのファッションショーの入場券が、京王井の頭線の電車の初乗りの切符。
それが配られて、「これが招待券だ」ということで、「どういうことだろう?」と思って。それで、その切符を持って指定された時間に行くと、吉祥寺駅にたくさんの人が集まって。普通にその切符で改札を通って入場するのです。そして、電車に乗って何が起こるんだろうと思っていたら、本当にゲリラで、その運行中の井の頭線の中を、モデルが歩いてきて。僕もですが、(一般の)乗車客も、突然のファッションショーに驚きを隠せない状態でした。
そこは、僕が思っていた“おしゃれさ”とか“エレガントさ”とか、“流行だ”とか”売れる服だ”とか、そういうのを評価する場所だと思っていたファッションショーでは全然なくて。いつも見ている電車の景色というのが、ただ女の子が洋服を着て歩いているだけなのに、全然、違うものに変容してしまって、日常が変わる瞬間を感じました。
洋服を着て、人が歩く。ただそれだけのことなのに、漫画を読んで感動とか、映画を見て涙を流すとか、音楽を聴いてすごく好きになるとか、そういうのと同じような心の動き方があって、「洋服はすごい。僕が思う以上に」と、その服をつくる神田さんに夢中になりました。その日をさかいに、少しだけ”洋服の力”というものを信じてみたくなりました。
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