高齢期の患者負担は1割、2割、それとも? 「高齢者」でなく「高齢期」、世代間対立は不毛だ

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では、年齢は、窓口負担額の多寡の代理指標になりうるのか?

最初の図でみたように、55歳以上の人たちの窓口負担額はさほど変わらない。しかも高額療養費制度があるために、自己負担率を1割から2割にしてもさほど変わらない。特に、自己負担額が高額療養費制度の上限に近い重病の人たちほどほとんど変わらない。

自己負担率に年齢区分を設ける理由を考えるのは難しく、最終的には一定にするのが理想的な姿であろう。

自己負担率と関係する数々の制度要因

ちなみに、世界を見渡せば、ゲートキーパー機能が強く、医療を利用するのにハードルが高い国では、自己負担率は低いし、日本のように、フリーアクセスの度合いが高いところは高い。また、病院が公営で、医療関係者が公務員であるところは、患者負担は低くすむし、そうでないところは患者負担が高くなる。さらには、医療機関への支払いが定額であるところは自己負担が低いし、出来高払いである場合は高くなる。いずれも極めて常識的な傾向を示している。

こう考えると、日本のように、フリーアクセス、民間の医療機関、出来高払いという制度特性を持ち、加えて財政には余裕はないというこの国では、将来的には3割に揃えるということになるのではないだろうか。ゆえに、今の2割論議は、3割への通過点なのだろうと観察している。

もっとも、以前、私は日本医療の制度要因を変え、かつ医療を消費税の課税対象にするタイミングで、自己負担率は2割に揃えることも考えていた。だが、なかなかその道は難しい。しかし完全に諦める方向でもない。

日本の医療は高齢者向きでないという事実」(2018年4月21日)でも紹介したが、65歳以上の人口は25%の人口で、介護給付費の98%、総医療費の6割ほどを使っている。

公的年金の根本原則を知っていますか」(2020年11月13日)にも書いているように、高齢期に必要となる消費のために、若いときから負担することによって、生涯の支出を平準化していることを、消費の平準化(consumption smoothing)という。

年金が典型的な例であるが、医療・介護保険も同じ役割を果たしており、現役期に負担することによって高齢期の負担を減らすことができているわけである(介護は40歳以上だから制度的には未完成)。

だから、高齢期の自己負担問題を、現役vs高齢者という、あたかも2種類の人たちがいるかのように対立の構図でみることは問題の本質を見誤ることになる。そうした対立の構図で議論をして得をするのは、現役期の労働者としか接点をもたない経済界のみであろう。いま現役期の人たちはいずれ高齢期を迎えるのである。

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