高齢期の患者負担は1割、2割、それとも? 「高齢者」でなく「高齢期」、世代間対立は不毛だ

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一見もっともらしい主張が、実は的外れであることが社会保障改革ではよく起こる(写真:CORA/PIXTA)

後期高齢者の自己負担率をめぐって世の中賑やかである。

現役の負担を軽くするために後期高齢者の自己負担率を上げろとする主張もあれば、年を取るほど医療費が高くなるので高齢者の自己負担率を上げると医療が受けられなくなるという主張もある。だが、どちらも医療制度を理解していない。それにそもそも医療費を制御するのに自己負担率操作は有効な手段ではない。上げてもワンショットでしか医療費は減らず、すぐに戻るのである。

思惑が入り乱れて、国民は置いてけぼり

医療の自己負担率で低所得者対策をやろうとしていること、それを年齢区分で行っていることは歴史的な遺制にすぎない。公的年金をはじめとした高齢期の所得保障が未成熟だった時代には、年齢は、彼らの生活を保障するために一定の意味はあった。高齢者の低い自己負担率然り、公的年金等控除然り。あらゆる制度に協力してもらいながら高齢者に所得を残して貧困に陥るのを防いでおく必要があった。しかし今は違う。労働市場もかつてとは変わってきた。

国民には一体何が議論の本質かも伝わらないまま、それぞれの立場を代表するプレイヤーがそれぞれの主張を展開し、そこに政治を巻き込んでのパワーゲームで落とし所を探る動きが本格化しようとしている。そうしたやり方では、将来のあるべき姿も含めて、国民はどのような在り方が理想なのかわからず、選択のしようもない。

進むべき方向はシンプルだ。自己負担率は年齢区分なく一定に揃える、所得区分も労多く益少なく弊害のほうが大きいために撤廃する。他方で、所得が低ければ大変であるのは年齢に関係なく同じで、特に、低所得者は自己負担率の影響を敏感に受ける。ゆえに、低所得者には負担が軽くなるように、低所得者を見極める方法も視野に入れて徹底的に議論する。

そうしてシンプルな制度にしていけば、世代間対立を煽りたがる者たちから医療保険を守ることができ、さらには所得が高い層による批判から皆保険を守ることもできるようになっていく。今の議論の方向性では、いたずらに議論が複雑になり、国民は混乱に陥って、医療制度への不信感が高まるだけだ。

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