「酒場店主」が行きついたジンワリ癒すお燗の技 プロに学ぶオンとオフをつなぐお酒のたしなみ

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プロフェッショナルなお燗技術でお客をもてなす佐藤さん。その佐藤さんを癒すのもまた、お燗だという。その魅力とは?

「試飲を除き、自分のためにつけるということはまずありません。でも休みの日の食事となるとほぼ外食で、和食なら年中お燗しか飲まないくらいです。夏場でも、です。一番は香りですかね。温めると香りが広がってより味わい深くなる感じがして好きなんです。冷酒より悪酔いしないといいますが、それはあまり考えていません(笑)。

単純に自分の好みなんです。休日のお燗は勉強、というよりリラックスのため。あれこれ難しいことはあまり考えずに。だらだらゆるゆる飲みたいときにも寄り添ってくれます。ほっと一息つけて、温泉につかっているような気分にさせてくれます」 

普段、心を砕いてあれだけ丁寧にお燗をつけているなら、ほかの人のお燗に疑問符を抱いてしまうことはないのだろうか。佐藤さんの答えははっきりしていた。

「休日に誰かに付けていただいたものに関しては、自分だったらこうするのに、とは絶対に思わないですね。『これもおいしいな』ですね。銘柄もつけ方も完全にお任せしてしまいます」

自宅で超手軽にお燗をつけるなら…

佐藤さんは、自分のためにお燗をつけることはないと言うが、手軽に家でつけられる方法を聞いてみた。スタンダードなのは鍋に湯を沸かし、徳利ごとちゃぽん。電子レンジなら、一番低いワット数で数十秒ごとに小刻みで温めていくのも手だという。そう自宅では究極を求めるより、手軽なほうが楽に飲めるに違いないのだから。

お猪口に関しては、広がりのある平盃がお薦めだという。

お燗向きの広がりのある平盃。あれこれ飲み比べているうちにずらずら……(撮影:萬田康文)

「口に入れたときに、舌が味を広くとらえるので味わいを感じやすいですね。口が当たる部分が少し反り返っているお猪口も、口にフィットしてお燗酒に向いています」

とはいえ、本日、いただいたお燗の酒器を前にしみじみ思う。自宅だとしたら、これだけ飲むのだけでも、何度席を立ってキッチンと行き来しなければならないか。「自分がリラックスするためのお燗はプロに任せる」。それもまた、行きついた達人の名答である。

沼 由美子 ライター・編集者

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ぬま ゆみこ / Yumiko Numa

神奈川県生まれ、東京住まい。10年の会社員生活を経てフリーランスライターへ転身。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)、取材・執筆に『日本全国 ご飯のとも お米マイスター推薦の100品』(リトルモア)、『読本 本格焼酎。』(プレジデント社)などがある。

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