「酒場店主」が行きついたジンワリ癒すお燗の技 プロに学ぶオンとオフをつなぐお酒のたしなみ
続いて登場したのは、鮑の黄身味噌焼き。鮑を包む味噌から濃厚なコクと旨味が広がるではないか。ここに登場したのは““悦 凱陣(よろこび がいじん)山廃 純米酒 無ろ過生 赤磐雄町”だ。
「生原酒のお酒は65度ぐらいの高めにつけることで、特有の香ばしさが生まれます。黄身味噌のカスタードクリームのようなニュアンスと、この香ばしさが相乗して、長い余韻が生まれます」
佐賀牛と聖護院大根の炊き合わせには、“綿屋(わたや) 純米原酒 雄町 60”(金の井酒造)を。
「1回火入れのひやおろしを55度位の柔らかさを感じる温度につけています。ひと夏越えているものの、あくまで穏やかな旨味です。牛肉もグリルではなく炊き上げているので、お酒の穏やかさが料理に寄り添ってくれます」
温度違いの酒燗器2基を駆使
登場するお燗どれもが、料理にピタッと合う柔らかさ、インパクト、香りや味わいで、もう、佐藤さんの手のひらの上でぐるんぐるん転がされっぱなしである。お燗をつける手順をたずねてみた。
「55度までつけるのを基準に、香りと味見をして仕上げます。ツーンとしたアルコール感が出てしまうものは、デキャンタージュするように空気を含ませてして柔らかくしたり、ぬる燗をご要望いただいた場合も、一度高く上げてから冷ます“くだり燗”をすることでおいしさを引き出したり。
銘柄ごとに決まりがあるのではなく、抜栓してからも日々味が変わっていくので、その時々の状態を確認してお客様の今の状態に合いそうな味わいに調整していきます。料理と一緒ですね」
「料理と一緒」という言葉が新鮮に響いた。そうか、お燗はお酒を「料理」することなのか。
「お客様が召し上がっているお料理や飲むタイミングに合わせて、お酒に最終的な火入れをして仕上げていく感覚です。あくまで僕の頭のなかのイメージなのですが。料理でも強火でこんがり焼くのか、弱火でことこと煮込むかで味わいが変わりますよね。それと同じで、今召し上がっているお料理には、急激に上げてお酒らしさを強調したほうが合うかな、だしのようにふわっと広がる味わいにしようかな、と考えたりしています」
さらに、これからのお燗がよく出る時季には、酒燗器「かんすけ」を湯の温度違いで2基守備すると言う。
「約80度と約60度のものです。急に熱いお湯に入れるとアルコール感が立ってしまう場合があるので、まず60度のほうで徐々に温度を上げて、仕上げに80度のほうに入れる、という感じです」
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